今までの常識からは考えられないアイデアで、水問題の解決に挑む企業があります。WOTA株式会社が作るのは、次世代の小規模分散型水循環システム。
使った水を大規模施設で処理するのではなく、装置の中でろ過することで、その場できれいな水として使えるようにする、ヒューマンスケールのプロダクトです。
2021年10月に国際的な環境賞・アースショット賞のファイナリストにも選ばれたWOTAは、地球規模で水インフラの未来を見据えています。代表取締役CEOの前田瑶介さんが考える水インフラの最先端を伺いました。
(本記事は本サイトを運営する一般社団法人Water-nが発行する冊子「Water-n」vol.12(2022年8月発行)から転載したものです)
蛇口をひねると当たり前に出てくる水。その水がどこから来ているか知っていますか? WOTA株式会社代表取締役CEOの前田瑶介さんのお話は、そんな問いかけから始まりました。
「四国の中山間地域の育ちなのですが、上下水道がなく、湧き水にポンプを置いて、そこからホースで家々に引いている地域が多くありました。時々水が止まっても、『葉っぱが詰まったんだな』と、掃除しに行けば直る。ここの水は飲めないとか、あそこの水はおいしいとか、そういう生活感覚がありました。
それが東京に来たら、水がどこから来ているかを誰も知らずに暮らしていて、災害時にどうすればいいかもわからない。地元ではヒューマンスケールだったものが、完全に乖離している。そこに衝撃を受けて、上下水道の仕組みに対して、もっと別のあり方があるのではないかと考えました」
都市部の大規模集中型水インフラに違和感を持ったという前田さんですが、日本の水処理分野が遅れているかというと、そうではないそう。
「日本の水処理は、運用水準としては非常に高いんです。ただ、多くの浄水場や下水処理場はそれぞれ異なる仕様で作られているため、ノウハウを共有しづらいんですね。酒蔵のように、ある場所でうまくいく方法論が、別の場所では使えなかったりする。
だから輸出するのが難しいし、輸出しても現地の方だけで運用するのが難しい。当社は水インフラを製造業の視点でなるべく標準化することで、誰でも同じように使えるようにしたいんです」
誰もが必要な時に必要な分の水インフラを持てるようになったら、水分野のどのような課題解決につながるのでしょうか?
「『なぜ上下水道がいまだに全世界に普及しないんだろう』と考えた時に、個別性がネックだと思ったんですね。自動車もスマートフォンも世界中に普及しているのに、水インフラだけが違う。
なるべく早く水問題を解決するには、製造業的な視点が要るのではと思っています。
技術的な前提が変わってきて、現状の水インフラにも限界がきている中で、もうちょっと素朴に、人間的なスケールの水インフラが必要ではないか。同時に、それはサスティナブルなプロダクトであるべきだと考えていった時に、ひとつのデザインとして小規模分散型の水循環システムに帰結しました」
WOTAが開発した小規模分散型の水循環プロダクト、WOTA BOXとWOSHは、使用した水の98%以上を循環して再利用できる、まさにサスティナブルな製品。元開発責任者で、現インキュベーション責任者の山田諒さんが開発秘話を教えてくれました。
「誰でも使えてメンテナンスできるプロダクトにするには、かなり試行錯誤がありました。なるべくマニュアルがない環境で、水処理の知識がない方でも操作ができる仕様にしています。
水処理に関しては、安全性が最優先なので、水処理をいかに自律制御して安全に水を循環させるかを開発してきました。WOTABOXもWOSHもほぼ同じ仕組みで、膜処理に塩素と紫外線を組み合わせて浄水し、全体を自律制御しています」
革新的な発想で、ユニークなアイデアを形にしているWOTA。発想の源を伺うと……。
「水処理や衛生工学だけでなく、建築やデザイン、データサイエンス、大手メーカーで何十年も製造業に携わってきた技術者など、かなり専門性が異なる人間が集まっています。
水処理の人間からしたら当たり前のことが、全然そうではない。水処理と他分野を比較できるので、面白い発想が生まれるとしたら、面白いメンバーが集まっているおかげです。
また、世界的な水問題や気候変動の問題がある中で、我々みたいなちょっとラディカルなアイデアを持った人たちが、行動を起こしていくことが大切だと思っています。自分もそういうアクターでありたいし、そういう世の中になってほしいなと思いますね」