【図解】CDP水セキュリティレポート2019:日本版(5)

なぜか低迷する回答率。その理由を考える

 これまで述べてきたように、CDP水セキュリティは各国の機関投資家が賛同するプロジェクトだけあって、日本での対象となる企業、回答する企業ともにその数は年々増えています。しかし、なぜか回答率は停滞したまま。その理由を考えてみたいと思います。

回答企業数は約3倍。でも回答率は60%で停滞

まず回答企業数の推移を見てみましょう。2019年は前年より8社増えて194社が回答しました。2015年からは121社増、約2.7倍と着実に増加しています。

一方、回答率は前年から1ポイントアップの61%にとどまりました。ちなみに回答企業数が増えているのに回答率に変化がないのは、質問状の送付数(母数)が増えたためです。

2015年の回答率49%に比べれば10ポイント以上は伸びていますが、ここ数年は60%前後を行ったり来たり。やや停滞気味であることが伺えます。

「回答しない」を選択する企業も

 回答率が伸び悩むのはなぜなのでしょうか。その要因を「F」ランクの企業に着目して考えてみたいと思います。

 「F」ランクとは「回答評価を行うのに十分な情報を提供していない」場合に与えられるランクで、要するに回答しなかった企業と思っていただけばいい。

 Fランクの中で注目したいのは、2018年には回答したにもかかわらず、2019年には未回答でFランクとなった企業です。2019年は本田技研工業とヤマハ発動機の2社がこれに相当します。

 このうち本田技研工業からその理由について、書面で回答をいただくことができました。端的に言えば「水リスクはグローバルで検討しても比較的低い」と判断したということです。

CDPでは水プロジェクトに先駆けて、気候変動でも同様の取り組み(企業への質問状の送付、その回答の公開、ランキング)を実施してきました。また、フォレスト(森林)プロジェクトもあり、同社には水、気候変動、森林の合わせて3つのテーマについてCDPから質問要求が寄せられているそうです。

このうち、同社は従前から気候変動プロジェクトのみ回答してきましたし、こちらについては今後も継続するそうです。その理由は下記の通りです。

・CO2を排出する製品を製造販売しており、環境に与える影響として最もインパクトの大きい気候変動のみ回答
・当社の水リスクはグローバルで検討しても比較的低く、気候変動への対応が対外的な評価も含め 最重要との判断から 気候変動のみ回答

とはいえ、当然ながら水使用量の削減や水リサイクルには積極的に取り組む意向ですが、CDPウォーターへの回答はその重要性と手間との兼ね合いで、今後も未回答となる見込みです。

なお、洪水や渇水などの水リスクについては気候変動リスクとして捉えるとのこと。そのため、リスクへの備えが手薄になることもなさそうです。

水リスクと気候変動リスクの兼ね合い

 確かに水リスクの多くが気候変動によってもたらされます。従って、同社と同じように、気候変動に関する情報開示をすれば、おのずと水リスクに関する情報が含まれると考える企業もいるでしょう。このことがCDPウォーターの回答率が停滞する一因と推察できるのではないでしょうか。

実際、CDPに詳しいコンサルタントによると、今後、CDPの気候変動と水、森林という3つのプロジェクトは統合する方向にあるということです。