国際NGOのCDPがこのほど、「CDP水セキュリティレポート2019:日本版」を発表しました。CDPは世界の主要企業に水リスクに関する理念や取り組みなどについて質問状を送付し、企業から返ってきた回答を分析・評価し、それらの情報を広く公開しています。CDPウォーターの結果をなるべくグラフ化し、その意味するところを連載で考えていきたいと思います。
<署名した機関投資家数、運用総額>
投資判断の根拠として、財務情報に加え、環境(E)、社会(S)、企業統治(G:ガバナンス)などの非財務情報も投資判断において考慮する機関投資家が増加傾向にあります。こうして行われる投資は「ESG投資」と呼ばれます。CDPは主に「E」に関する情報に分類され、その結果を指標の1つとして導入する機関投資家も出てきています。
こうした状況を背景として、CDPウォーターに署名する機関投資家数は、2018年までは右肩上がりで増加しました。しかし、2019年は130機関減って525機関となりました。
一方、運用総額は右肩上がりを続けています。2019年は前年より11兆ドル増の96兆ドルとなりました。図をご覧ください。参考のため、CDPウォーターに先駆けて始まった気候変動に関する情報公開プログラムの結果も併記しています。
CDPウォーターとCDP気候変動を比べてみると、気候変動の方が国際的課題として共通認識が先に生まれ、CDP気候変動も先に始まったことから、署名機関数、運用総額ともにCDPウォーターよりはるかに大きい数字で推移してきました。しかし、2018年に運用総額が追い付き、2019年は署名機関数でも肩を並べました。
2019年は署名機関が減ったとはいえ、2010年から約3.8倍に拡大しています。つまり、機関投資家が企業価値を評価する際に、水リスクに対する姿勢を見る意思は着実に高まっていると言えるでしょう。
<日本企業の回答数、回答率>
ここからは、日本企業に絞ってCDPウォーター2019の結果を見ていきたいと思います。
まず回答企業数ですが、これは増加傾向にあります。2019年は前年より8社増えて194社となりました。2015年からは121社増、約2.7倍と着実に増加しています。
一方、回答率は前年と1ポイントアップの61%にとどまりました。回答企業数が増えているのに回答率に変化がないのは、質問状の送付数(母数)が増えたためです。2015年の49%に比べれば伸びていますが、ここ数年は60%前後を行ったり来たりしており、やや停滞気味であることが伺えます。
先述したように、企業の水リスクに対する姿勢を投資判断に加えようとする投資家の意思が伺えます。CDPでなくても構いませんが、何らかの形で情報を積極的に公開していく必要はあるでしょう。
CSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏の持論が思い出されます。簡潔にまとめます。
日本企業にはESG投資につながる「三方良し」のDNAが流れているが、いかんせん「陰徳善事」で情報発信が苦手である。それではグローバル競争には勝てない。今後は「発信型の三方良し」を志向すべきである。
気候変動にパリ協定という国際的な約束事があるのに対し、水リスクには今のところそれがありません。つまり「どのようなゴールに向けて、どのような取り組みを、どれだけやるのか」は企業任せにならざるをえないところがあります。
そうした中、各社の取り組みを(ある程度)相対評価するCDPウォーターは、非常に貴重な情報を提供してくれていると言えるでしょう。
しかし、水リスクの多くが気候変動によってもたらされることを踏まえると、CDPウォーターはCDP気候変動に含まれると考えられるのかもしれません。署名機関数や回答企業数が今後、どう変移するのかが注目されるところです。