【能登半島地震③】破損の状況を調べ復興への道筋を探る

復旧を担う人々の思い

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2024年1月1日、能登半島をマグニチュード7.6の地震が襲った。半島という地形、建物やインフラ設備の老朽化、命綱ともいえる道路の被害など、さまざまな要因が重なり、上下水道をはじめとする社会インフラの復旧には多くの困難があった。厳しい現場を乗り越える原動力になったものとは、いったい何だったのだろう。さまざまなシーンで復旧に携わった人々のリアルな行動や、思いを振り返ってみよう。(全7回)


強い逆風の中で

「とにかく速やかに調査結果を報告することです。調査をしなければ復旧が進みませんから」

こう語るのは、下水道管路管理業協会(管路協)の活動で、下水道管の調査にあたった管清工業の大向寿史さん。

震災後に立ち上がった災害本部に参加し、上下水道の支援にあたった管路協の役割は、災害査定のための調査を行い、報告書を作成すること。この報告をもとに復旧の計画が立てられるため、迅速な調査と報告とが求められた。

しかし調査は強い逆風に見舞われていた。地震が起きた1月1日は、年度末に向けて建設業界が最も忙しい時期。管路協の中でも、支援に駆けつけたくても納期との兼ね合いで動けない事業者が出ていた。

また半島の命綱ともいえるのと里山街道が被災したことで、北側の被災地に行くためには片道5時間以上もかかってしまううえ、被災地には宿泊場所もなく、1日数時間しか作業時間が取れない。そのため、比較的道路の破損が少ない南側の地域の査定を先に進め、道路の破損が激しい北側は、応急復旧を先行するという形で支援・調査が進められていった。

マンホールの蓋が開かない!?

また、調査の現場の意外な落とし穴が「マンホールの鉄蓋」だった。マンホールの蓋の基本形状は日本下水道協会規格で決まっているものの、蓋に付く錠構造は多くの種類が混在しており、非被災自治体から支援に来たチームが調査のために開けようとしても、開け方が分からない、開けるためのバールがないという事態が想定された。

そのため管路協会員であり、マンホールの鉄蓋を製造している日之出水道機器では、すぐに自社HPにマンホールの開け方ガイドを掲載。マニュアルを作成し、開けるために必要な4種類のバールを全国から手配し、現地で開閉操作の説明会も行うことでこの問題の解決を目指した。

日之出水道機器による、マンホールの開閉方法の説明会。使用するバールも配布。写真提供:日之出水道機器

アナログ資料も活用

最近はデジタルデータの必要性が重視されがちだが、アナログの資料が活きたという事例も聞くことができた。発災直後から上水道の漏水調査を行なっていたフジ地中情報の北陸支店では、被害の大きい区域にヒアリングに行く際、自社で使用している上水の水道管をマッピングした紙の図面を持参したところ、非常に感謝されたという。

「実際に調査に赴くなど、現場に行く場合には、PCやタブレットを使用しないこともあります。やはり紙の図面が便利という場面もまだ多くあるなと実感しました」(フジ地中情報 細川浩さん)

遠隔での調査や管理を可能に

下水道管の災害査定にあたっては、実際にマンホールの蓋を開け、管路の中を調査する必要がある。管路の中に入り込んだ泥や水を取り除く吸引車、管路内を洗う洗浄車、管路内を撮影するテレビカメラ車、給水車、機材車、と多くの車両が必要になるため、路面の悪い状況では車両自体が入ることができず、調査が思うように進まない。この事態は、今回の震災における最も強い逆風だったのかもしれない。

被災地域の状況や地理的特徴に合わせるための設備の確保や環境の整備など、今回の震災においては、水インフラに限らずさまざまな課題が浮き彫りにもなった。

その一方で、新しい技術を使うことで、効率化を可能にした面もあった。簡単に報告書が作成できるアプリの使用や、サーバーを活用した情報共有でデータの収集や伝達の速度アップが可能になり、今回は実用化には至らなかったものの、遠隔操作が可能な下水道カメラ技術など、新しい調査法の開発も進められた。

下水道管調査の様子。吸引、洗浄、テレビカメラでの撮影など、多くの設備が必要になる。写真提供:管清工業

「新しい技術による効率化・迅速化には大いに期待しています。調査が止まってしまうということは、後々の復興スピードにも大きく影響しますから。それと同時に、震災の現場に立ち会うことや、その経験を後進に引き継いでいくことも同時に大切にしていかないといけません。災害時には、普段の業務とは違う判断が必要になります。だからこそ、その経験をした人間がその場にいるということも、復旧・復興の大きな力になるはずです」(大向さん)(つづく)

「Water-n」vol.16より