【能登半島地震②】一刻も早く命を守る水を届ける/人と地域、人と情報との連携を

復旧を担う人々の思い

【駆けつける】

2024年1月1日、能登半島をマグニチュード7.6の地震が襲った。半島という地形、建物やインフラ設備の老朽化、命綱ともいえる道路の被害など、さまざまな要因が 重なり、上下水道をはじめとする社会インフラの復旧には多くの困難があった。厳しい 現場を乗り越える原動力になったものとは、いったい何だったのだろう。さまざまな シーンで復旧に携わった人々のリアルな行動や、思いを振り返ってみよう。(全7回)


頼まれるよりも先に

「人間は水なしでは3日しか生きられない」と言われている。この命に必要な水を「1秒でも早く届けるために」駆けつけた人々もいた。

「今回の震災が起きた際に、会社全体で1月1日から北陸支店と連携を取り、2日の朝には七尾市などの断水に備えて現地入りし、給水車を稼働する準備を行いました。要請を受けてから準備するのでは、給水に関しては遅すぎると思い、その前に動き出しました」

そう語るのは、全国で上下水道の委託事業などを手掛けるヴェオリア・ジェネッツの在原祐機さん。震災が起きてすぐ、ヴェオリア・ジャパングループは全国に配備していた給水車を被災地へと走らせた。

操作方法をスマホで撮影するヴェオリア・ジェネッツ CS本部 北陸支店七尾営業所の長尾 琴乃さん。写真提供:ヴェオリア・ジャパン グループ

ヴェオリアは、2016年の熊本地震や、2019年に千葉県を襲った豪雨の際にも、給水車や従業員を派遣して被災地を支援してきた経験を持つ。今回は全国から合計5台の給水車とともに駆けつけ、その初動の甲斐もあり、「早く来てくれて助かった」「さすがだね」と声をかけられることもあったという。

水の大事さを知るからこそ

一方で、給水車を扱える人が限られるという課題もあった。そのため、自身が被災しているにも関わらず、休みも取らずに給水作業を続ける従業員もいた。しかし、その苦しい状況をチームワークで乗り切る場面もあったという。

「ある若手社員が“連勤が続いていた所長を休ませてあげたいから”と率先して給水車の操作方法を学び、扱えるようになりました。“運転できるとカッコいいかなと思って”とも言っていましたが(笑)」

発災と同時に社員一人ひとりが、組織として何をすればいいのか自ら考え、それを行動に移すことができる態勢になっていたという。

「水道事業を通して、地域社会に貢献していくのが私たちの仕事です。水というものの重要性を日頃から感じているからこそ、災害時に素早く動くことができる従業員が多いのだと思います」

一人ひとりの想いと、全国のグループ同士の協力体制。その連鎖が水を届ける素早い行動を可能にしたのかもしれない。


【つなぐ】

災害査定のための「連携」を

広域災害が起きると、被災地に災害本部が立ち上がる。そこに国土交通省、支援各自治体、関係機関の職員などさまざまな人が集い、力を合わせ復旧を目指す。

生活に不可欠な上下水道は早急な機能回復が必要なため、国の財政出動で復旧工事が行われる。国の負担を決定するための手続きが「災害査定」と呼ばれる。「復旧にともなう国庫負担(補助)の申請や審査は被災自治体と国により行われますが、査定を受けるために必要な書類の作成には大きな時間がかかります。そのため、これらの作業を支援する企業の紹介や円滑な査定の受験に向けた技術支援・アドバイス、支援企業決定後の査定図書の作成などを上下水道コンサルタントがサポートします」

全国上下水道コンサルタント協会(水コン協)の災害時支援委員会の委員長を務める日本水工設計の西宏志郎さんは、コンサルの役割をこう話す。

災害対応には、被災自治体とともに支援する自治体や全国各地の事業体など、多くの行政関係者が関わる。だからこそ、情報共有のためには潤滑油のような役割が必要になる。

国土交通省や自治体との協議、災害査定のための資料作成、査定に当たることができる協会員のリスト作成、支援のための調整。さらには査察のアテンドや調査のための講習会の開催……。現場が効率的に動くための「連携」を助けることが、水コン協や協会会員の大きな役割だ。

災害査定の講習会や、被災地の査察のアテンドなど、被災地での役割は多岐にわたる。写真提供:日本水工設計

地域に合わせた復旧を

災害時の団体の協働は経験が積み重なり、スムーズになってきた一方、課題もまだ多いという。

「地中にある下水道管の調査には、破損状態を調べるために多くの設備や人手が必要です。しかも自治体によっては敷設位置などの情報の電子化やデータベース化が進んでいないために、調査に時間がかかかってしまいます」(日本水工設計 髙田和宏さん)

これまでのノウハウの積み重ねを共有し、復旧や復興のスピードアップを目指していくこと。地域ごとに事情が異なる災害対応の現場では、一人ひとりの知見を持ち寄って連携することが重要になる。その連携を強いものとする「つなぐ」役割もまた、より大切な役割を担っているのだ。(つづく)

「Water-n」vol.16より