<経営トランスフォーマー>14人目:村岡基 中小企業だからこそ国内水コンサルティング業務を極める

極東技工コンサルタント 異業種に学んだ『ちゃんとした』経営を実践中

IoT・デジタル化、脱炭素、 SDGs 、コロナ、人口減少、整備時代の終焉など、世の中に見られるいくつかのトレンドが各社の経営にどのような影響をもたらすのか、その影響を見据えて各社はどう経営戦略を変革(トランスフォーメーション)するのか。新連載「経営トランスフォーメーション」では、経営の変革に挑む経営トランスフォーマー達へのインタビューを通してインフラ事業の羅針盤を示す。 

月刊下水道とのコラボ連載です(2024年4月号掲載)


【連載】経営層シリーズインタビュー<14人目>村岡基社長

株式会社極東技工コンサルタント
村岡基社長

大阪府吹田市に本社を置く極東技工コンサルタントは、売上22億円(2023年9月期)と上下水道コンサルタント業界においては決して大手ではないが、キラリと光る何かを見せつける不思議な企業だ。2024年3月に設立50周年を迎えた今、次なる“キラリ”をどこに見出そうとしているのか。村岡基社長に経営トランスフォーメーションを聞いた。

自治体の「汚水処理施設10年概成」をサポート 

本連載はDXや人口減少、SDGs、整備時代の終焉など社会のいくつかのトレンドを背景として、水インフラ業界においてもモノからコト化経済への移行、モノを使った価値創造への転換、つまり経営を変革(トランスフォーメーション)すべきではないかという課題認識からスタートした。

2023年に当初は無かった社会トレンドとして、「ウォーターPPP」(PPP/PFIアクションプラン令和5年改訂版)が打ち出され、2024年度から国土交通省下水道部に厚生労働省水道課が担っていた水道行政が移管されることとなった。さらに村岡社長が注目するトレンドが、いわゆる「汚水処理施設10年概成」である。 

「汚水処理施設10年概成」とは、その文字通り、下水道・農業集落排水処理施設・合併処理浄化槽などの汚水処理施設を今後およそ10年間で整備し終えるということ。国土交通省、農林水産省、環境省が共同で2014年度に策定した「都道府県構想策定マニュアル」に明記されたもので、およそ10年後の概成時期として示された2026年度末がもう3年後に迫っている。 

「営業担当の社員と一緒に自治体を訪問して意見交換させていただくと、中小市町村の最大の関心事は10年概成だと感じます。2027年度以降は、汚水管の改築にウォーターPPP導入が要件化されることとされてから、不安視する声が大きくなってきました。10年概成“問題”と言えるほど中小市町村の不安が膨らんでいると感じます。 

雨水対策への予算も必要ですからね。大規模自治体は大丈夫かもしれませんが、中小市町村が国庫補助もない中で下水道事業を維持することは容易ではありません。水コンサルタントとしてこのような市町村をしっかりとサポートする。今後はそこに当社の力を集中させていきます」 

社員161名、売上22億円から目指すのは、ゆっくりとした歩みだが3年後に175名、25億円だ。

受注額・平均受注額の推移(極東技工コンサルタント提供)

 水コン・国内・地域密着に全力 

村岡社長が言及する10年概成や中小市町村のサポート、ウォーターPPPへの対応は、いずれも本連載の中で他社の経営者も異口同音に話題にしていた。皆と同じ案件に群がってしまっては、熾烈な市場競争に巻き込まれるのがオチだ。大手水コンサルタントも立ちはだかる。中小企業の同社はどこに生き残りの道を見出すのか。 

村岡社長が選択した戦略は、水コンサルタント業を極めること、国内市場に集中すること、そして拠点のある地域を中心とした地元密着のサポートを図ることの3点だ。 

「上下水道施設の再構築事業の設計や一体的な事業計画の見直しなど、国内のコンサルティング業務だけでも十分な売り上げを確保できると見ています。平均単価1200万円の案件を年間180~200件が目指す姿です。 

ですので上下水道以外のビジネスへと事業拡大している水コンサルタントも出てきていますが、当社は視野に入れていませんし、為替や安全面でのリスクが大きい海外市場への展開も今のところ考えていません。以前は海外案件にも取り組みましたが、期間中は担当者がその案件だけに縛られます。それよりも国内の複数案件を担いたいのです。 

とはいえ社員数は160名ほどで多くの案件をこなせるわけではありませんので、当面は拠点のある33都府県に注力します。そのかわりこれら地域にしっかりと密着し、提案内容では大手にも負けない内容として、長期にわたって自治体を誠心誠意サポートしていきたいと考えています」 

国内市場や上下水道事業がシュリンクするから海外展開する、周辺領域に事業拡大する。こうした戦略は本連載でもよく聞いてきたし、そのような経営トランスフォーメーションを聞きたい思いが強かったのだが、驚くことに村岡社長の戦略はその逆張り。背景にはその選択を可能にし得る同社ならではの“キラリ”があるからだ。 

とかく大手企業と比較しがちであるが、実は同社と同規模の水コンサルタントと比較すると、上水道と下水道の両面で事業展開している会社は多くないという。同社の場合、売り上げに占める水道事業の割合は現状で2割、将来的に3割強まで引き上げる方針だ。 

国の下水道行政と水道行政が2024年度に一体となり、今後は自治体からも上下水道が一体的となった発注が増えることが見込まれる。同社はそこに活躍の場を見出す。とりわけ大手コンサルタントにとっては規模が小さく、採算から考えて二の足を踏むかもしれない中小市町村こそが同社の本舞台となりそうだ。 

「野球道」や「取締役合宿」など独特の社員研修を実践
資格取得支援で技術士8割を目指す 

こうした経営戦略を実効するうえで欠かせない技術士を増やすため、資格取得をサポートする体制も構築した。全技術社員に占める技術士の割合を、現在の6割から8割に高めることを当面の目標とする。一般に水コンサルタントでは管理技術者・照査技術者・担当技術者が1名ずつの最低3名でチームを組むそうだ。このうち管理技術者・照査技術者には技術士の資格が求められるものの、担当技術者には求められることはないというが、8割を達成できればすべて技術士だけのチームを結成でき、技術力をさらにアピールできるようになる。 

資格取得以外の社内研修の充実も図っており、社員のみならず経営者の人財育成にも注力する。興味深いのはその中身だ。 

例えば社員向けでは、アフリカで子どもたちの野球チームを作り指導している元JICA職員を講師に招き、礼儀や時間順守、仲間と助け合う、整理整頓などベースボールとは異なる「野球道」というものをどう伝え、実践したかを語ってもらった(写真)。それがそのまま、社員の日頃の働き方、人との付き合い方、ふるまいに反映されることを期待してのことだ。 

(写真)「野球道」をテーマとする社員研修は、働き方や人との付き合い方などを見つめ直すきっかけになっている

取締役向けではコーチングをテーマにして、2023年に神戸・六甲山にある関西大学の施設を借りて合宿を行った。コーチングの手法を学ぶというよりも、自分自身を見つめ直し、反省点を洗い出し、話し合うのが狙いだ。そうしてまとまった取締役ごとの改善点は「My Credo」(マイクレド。著者注:クレドとは行動指針のこと)として言語化し、社員へのコミットメントとして各拠点に掲出している。 

村岡社長のMy Credo

 業界外の視点で自社と業界内を見つめ、 “ちゃんとした”経営者を目指す 

テーマ設定やコーチの人選において村岡社長は、業界外にアンテナを張ることを大切にしている。数年前から関西大学の評議員と大阪ロータリークラブでの活動を通じて業界外の経営者と出会う機会が格段に増え、彼らの生き様や心意気、心構えに感銘を受けたことがきっかけだ。 

「大学の経営や100年超え企業の経営などを知れば知るほど、さまざまな視点で上下水道事業を俯瞰する必要性に気づかされました。そうすることで次の仕事のシーズやニーズが見えてきます。業務としては水コンサルタント業に専念しますが、経営については業界外から学ぶべきことは多い。そうして当社の営業と技術の両面でのすそ野を広げていけば、より高い頂に到達できるはずです」 

これも精神論ですが、と前置きしてこう付け加えた。 

「成功者はみな業種を問わず潔癖でスマートです。決して傲慢にならず、人に迷惑をかけない。ふるまいもそうですが、持ち物も身なりもそう。それらをないがしろにしていたわけではありませんが、改めて身だしなみやふるまいをきちんとする、関西弁でいうなら“ちゃんとする”ように気を付けるようになりました」 

その背中を見たからか、社内研修の成果なのか、はたまたその両方か、靴やカバン、スーツの手入れを気遣う社員が増えてきたそうだ。 

「社長の背中は社員に見られています。だから丸まっていても、歪んでいても、肩肘が張っていてもダメ。等身大でありながら、ちゃんとした背中を見せないといけません」 

My Credoなどを活用して社長や経営層が等身大の背中を見せてくれれば、社員の心理的安全性につながりやすい。それが自律性と自立性の高い人材育成につながり、自治体へのより良い提案につながり、さらには“ちゃんとした”仕事の成果から地域の人々の“ちゃんとした”暮らしにつながることを期待する。