ポストコロナ社会と公共施設マネジメント

【講演】Withコロナの公民連携とは何か:南学氏

自治体の経営や政策面での課題解決を支援するため、大和リース主催の「第17回公民連携Dチャンネル『Withコロナの公民連携とは何か』」が先ごろ開催されました。初のオンライン開催ということもあり申込者は1,000名超。冒頭には厚生労働省の山本博司副大臣の応援メッセージが放映され、公民連携への関心の高さが伺えました。ここでは東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻客員教授の美原融氏と南学氏による講演概要を2回に分けて紹介します。今回が2回目。公共施設寄りの講演内容ですが、水インフラPPPへの示唆に富んだ内容なので必読です。


前回
コロナと共生する公民連携のあり方を考えよう
withコロナの公民連携とは何か
美原融 氏


この記事のコンテンツ
コロナ禍で否定される「人を集める公共施設」
公共施設を「縮充」するために
PPPで解決できる公共施設マネジメントの2つの課題
庁舎改築もリース方式なら5億円削減も可能
最低限必要な公共施設は民間の知恵と資金とノウハウで

南 学 氏(大和リース提供)
東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻客員教授。
東京大学教育学部卒、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校教育学大学院(教育学修士)修了。帰国後、市立大学事務局、市長室等を歴任し横浜市立大学教授、神奈川大学特任教授を経て現職。

コロナ禍で否定される「人を集める公共施設」

コロナがもたらしている暗雲は2つある。1つは税収減による財政悪化であり、2つは人を集めるための公共施設が否定されていることだ。これにより、大きなパラダイム転換が起こる。

財政悪化については、予算63兆円に対して数兆円が減少するとされており、そこからの回復にはリーマンショックよりも長期が必要と言われている。

とはいえ、財政悪化はコロナ禍に始まったことではなく、20年以上も前から拡充の時代ではないと言われてきた。

拡充の時代は縦割りかつ単機能が効率的であった。しかし、財源が小さくなっていくとそれらの施設などは財源を取り合ってぶつかり合う(競合する)ようになる。すなわち、複合化、多機能化、統合、縮小、廃止が必須となる。10年ほど前からそれが問題として現実的になってきて、公共施設マネジメントという言葉、考え方が出てきた。

ちなみに施設などを単に縮小させるのではなく、小さくなっても機能は充実させる方向で考えるべきである。これを「縮充」と呼んでいる。

公共施設を「縮充」するために

複合化・多機能化などによる「縮充」が必要(大和リース提供)

これまで必要と思われてきた公共施設・サービスは大きく5つに分類できる。

① 福祉・医療
② 防災・防犯
③ 子育て・教育
④ 道路・上下水道料(生活インフラ)
⑤ 公共施設(ハコモノ)

この中で減らせるものは⑤公共施設(ハコモノ)しかない。ここをいかに縮充するかを考える必要がある。

休館や使用制限が続く図書館や公民館のように、人を集められなくなった公共施設は不要かもしれない。代替サービスとして例えば、図書館をデジタル化したデジタル図書館はコロナ禍において急拡大し、100~200館で実現している。

これに対し学校、福祉医療施設、庁舎、公営住宅は必要性は高いが、とはいってもデジタル化やシステム開発によって在り方は変わる。

例えば学校の場合、教育の2つの役割である知識習得と、先生や友達との交流を分けて考える。すると、一方の知識習得はオンライン教育などで合理化できるかもしれない。同じ教室を午前は1年生、午後は4年生が使うこともできるし、教室の片側にだけ廊下があるという100年前の原則を引きづったレイアウトの変更も考えるべき。

すでに予備校ではオンラインによる全体授業と個別授業を組み合わせている。公教育にも生かせる可能性がある。

庁舎の場合、使われ方の8割は証明書発行、福祉の相談が2割ほど。そもそも市民が庁舎に行くのは年に1回か2回しかない。

証明書発行はマイナンバーやデジタル化で来庁は不要になるかもしれないし、市民が庁舎に行くのではなく、逆に移動行政サービスで団地に行くというのはどうか。となると、証明書発行のための1階部分を公の施設としてオープンにしたり、人が集まる機能からオフィス機能になったりするかもしれない。

PPPで解決できる公共施設マネジメントの2つの課題

スタジオの様子(大和リース提供)

① 安全性をいかに確保するか
公共施設は市民の生命や財産を傷つけてはならない。もし傷つけたら管理する市役所の管理職が刑事犯罪人になってしまう可能性があるのだが、老朽化施設にはそうした危険性がある。それを避けるために、民間企業への包括委託は有効だ。

兵庫県明石市がその成功例の1つ。民間企業だから行政の縦割りを超えて、部局横断的にいろんな公共施設のデータを集めることができ、客観的に優先順位をつけ、合理的に予算配分ができた。また、軽微な修繕も民間企業が併せて実施することでより安全確保につながったし、人件費も削減できた。

自治体には技術系職員が少ない。とりわけ人口5万人以下の自治体では顕著で、職員だけでは公共施設の全施設を見て回れない。包括的に民間委託すれば解決できる。

② 施設の縦割りをいかに無くすか
多機能化・複合化を実現するには、縦割りにとらわれない公民連携が必要だ。
例えば学校の場合、稼働時間は20%ほど。残りの空き時間を活用したり、周辺施設の機能を組み込むことは可能だ。セキュリティが問題視されるが、それは生徒と先生に対してのことで、授業がない時間はむしろ地域で活用したほうが安全性を確保できるはず。

とはいえ学校の統廃合は難しい。その前に学校に様々な公共施設機能の組み込みを進めてはどうか。災害対策として体育館にシャワー設備や更衣室、トイレ、防災無線、冷暖房などを整備したり、日常的にスポーツ施設として活用することも考えられる。

庁舎改築もリース方式なら5億円削減も可能

公共施設に関する公民連携において、リース方式はおもしろい手法の1つである。

愛知県高浜市がその成功例の1つ。庁舎の改築と耐震改修をする際、大和リースの提案を採用してリース方式を用いたところ、改築・耐震改修および建設後20年間の管理運営等に従来方式なら33億円かかるところ、30億円に削減できた。

竣工までの期間は5年から2.5年に短縮でき、さらに性能発注のため担当する職員数も5人から2.5人に半減できた。それによって人件費は、1000万円/年/人×5人×5年で2.5億円かかるところを、1000万円/年/人×2人×2.5年で5000万円で済み、2億円を削減した。

つまり建設関係で3億円、人件費で2億円、計5億円の削減となった。

最低限必要な公共施設は民間の知恵と資金とノウハウで

この手法がすべてに当てはまるわけではないが、重要なことは民間企業と一緒に方法を考えることだ。その過程をこっそりやると癒着や汚職につながるが、サウンディングで広く民間ノウハウや知恵を募ればいい。

民間ノウハウが漏れないように配慮しつつ、公開公募し、選定した優先交渉権者と詳細を詰め、その事業者と随意契約をする。随意契約は悪のように言われるが、随意契約が約束されているからこそ民間企業は知識やノウハウ、資金を安心して提供してくれるのだし、公開を原則としていれば問題はない。

資金や時間に限りがあるポストコロナにおいては、必要とされる公共施設は減っていく。しかし、最低限必要な公共施設はある。それらについては民間の知恵と資金とノウハウでどう持続するかを考える。それがポストコロナの主要な課題になる。