自治体の経営や政策面での課題解決を支援するため、大和リース主催の「第17回公民連携Dチャンネル『Withコロナの公民連携とは何か』」が先ごろ開催されました。初のオンライン開催ということもあり申込者は1,000名超。冒頭には厚生労働省の山本博司副大臣の応援メッセージが放映され、公民連携への関心の高さが伺えました。ここでは東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻客員教授の美原融氏と南学氏による講演概要を2回に分けて紹介します。今回は1回目。公共施設寄りの講演内容ですが、水インフラPPPへの示唆に富んだ内容なので必読です。
2回目
ポストコロナ社会と公共施設マネジメント
Withコロナの公民連携とは何か
南 学 氏
この記事のコンテンツ
コロナが公共施設・サービスに与えた影響
コロナにより変わるもの、変わらないもの
アフターコロナのPPPを考えるための4つのトレンド
バランスシート的発想で思考しよう
美原 融 氏(大和リース提供)
東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻客員教授。
一橋大学卒、三井物産入社、プロジェクト開発、インフラ投資を手がけ、1999年以降株式会社三井物産戦略研究所、2013年同社を退職し現職。
コロナが公共施設・サービスに与えた影響
コロナは個人や組織、社会全体に非差別的に影響を与えるリスクである。移動や交流を抑制すると、社会的・経済的活動が一時的に停滞してしまう。いかに地域社会と住民を守りつつ、住民への必要不可欠なサービスを提供することが自治体にとり、大きな政策のポイントであり、公民連携(PPP)による公共施設や公共サービスの提供は重要な要素となる。
しかし、公共施設・サービス関連のPPPもコロナの影響を受ける。そもそも継続性が要求されるため、安定的なビジネスであるが、半面、硬直的で柔軟性に欠けるところがあり、コロナのような長期的に継続する危機に対応しにくい。今はまだ大きな影響が出ているPPP案件は一部だが、今後、顕在化してくるので対応が必要だろう。
すでにサービスを停止せざるを得なかった案件、需要リスクを取る案件で収入が蒸発した案件等は費用と責任を官と民でどう負担するかの交渉が一部自治体で始まっている。英国ではコロナを不可抗力事由としていないが、日本政府は不可抗力事由とし、費用と負担の在り方は協議で取り決めることを明確にしている。しかし、本当に不可抗力と言っていいのかという議論も必要だ。
コロナにより変わるもの、変わらないもの
コロナは社会と国民に3つの変化をもたらした。
① ワークスタイルの変化(働く場所の選択肢増、リモート・在宅等)
② ライフスタイルの変化(生活の質重視、家族志向、二地域居住、ワーケーション等)
③ 生活者の価値観や行動の変化(安全・安定志向、節約、イエナカ充実志向等)
一方で、公共サービスの本質とPPPの必要性は変わらないのだが、上記変化に伴い、これまでの公共施設・サービスの在り方にも新しい変化が生じてきている。
それは、自治体の状況から考えても同じことが言える。リーマンショックを超える財政難となり、一方では公共サービスの停止や縮小で市民負担は増えている。公共サービスの在り方の再考が大きな議論になりつつある。
アフターコロナのPPPを考えるための4つのトレンド
① デジタル化・フラット化
市民と行政とのインターフェースがデジタル化することでハンコや紙、施設が不要になるなど行政手順が変化し、結果として公共施設・サービスを変えていく。
また、SNSの活用により情報伝達の方法が変化したことなどで、市民と行政の関係が垂直から水平へとフラットになる。それによって生活者目線で公共施設・サービスが変わっていく。窓口のない市役所も考えられる。
② ソフト化・サービス化
資産形成(新規施設の整備)ではなく、民間からサービスを購入する考え方が進む。また、行政が持つリソース(資産・情報・人材)の効果的な活用が加速するだろう。
例えば、ハコとしての図書館は不要で、デジタル図書館や移動図書館とし、レファレンスサービスもデジタル化する。施設を作るより行政コストは少なくて済むし、市民も図書館に行かずに本を借りたり、レファレンスサービスを受けたりできるので利便性がアップする。
学校の給食センターは公設民営が多いが、施設を整備する代わりに民設民営の学校給食センターからサービス(一日あたりの児童分の給食)を購入すればいい。民設民営であれば、給食を作っていない時間帯は施設は民間ビジネスに活用できる。
公共がモノを持たなければならないという発想から、サービスを購入するという考え方へ転換すべき。民間ノウハウにより危機への対応も不可能ではなくなる。
③ 統合化・複合化・シェアリング
施設や機能の統合や複合化、複数自治体間で同一施設を共有し、施設がもたらすサービスや施設の利用を共有するなどの考え方が加速する。
④ 分散化
企業が拠点を分散してリスク回避するなど、大都市への集中から地方への分散が進む。その結果として地方に来る人の満足度をいかに上げるか。その視点で地域活性化の考え方が変わり、自律分散型の地域活性化の流れが強まるだろう。
また、デジタル化によりサービス提供自体を分散化したりする仕組みも志向される。
バランスシート的発想で思考しよう
民間企業が当たり前に行っているバランスシート的発想により、公共施設・サービスの在り方を考えるべき。資産、負債、資本を再構成し、売却、新規調達、利用の在り方、新規資金調達、サービス提供の在り方等を工夫したり、入れ替えたりして、効率化を志向するわけだ。その際に重要なことは需要側、つまり市民目線から考えることであり、それによって新しい視点が生まれる。
コロナの危機を好機ととらえ、新しい発想で公共施設・サービスの在り方を志向すべき。そこにおいても民間の知恵やスキルを使うという考え方に変わりはない。