下水汚泥を肥料やエネルギーに活用したり、処理水を養殖に利用するなど、下水道には地域を元気にする資源が多く存在しますが、下水道業界の中にいるからこそ気づけていない可能性や魅力がまだまだ隠されているかもしれません。そこで、異業種からの転職者にお集まりいただき、業界内にいるだけでは気づきにくい下水道業界のおもしろさややりがい、魅力、もっと魅力アップできる伸びしろなどについて議論していただきました。 (全2回)
※環境新聞(2024年7月24日号)への寄稿を転載しております
右から
久田友和氏 NJS 管理本部事業戦略室 グループ・リーダー
押川隆昌氏 フソウ エンジニアリング事業部技術本部設計部下水道課
丹治道子氏 メタウォーター 経営企画本部人事総務企画室長 兼 人事勤労部長
進行・企画・執筆 奥田早希子 Water-n代表理事
だから「水業界」に転職しました!
- 押川氏 生物も機械も化学もあるからおもしろい
- 丹治氏 まったく異なる業界で経験を生かしたい
- 久田さん 生きるのに必要なのはハコモノより上下水道
――まずはフソウの押川さんから転職前の仕事内容と、転職された理由をお聞かせいただけますか。
押川さん エンジニアリング会社で9年間勤め、原子力発電所の耐震解析に携わりました。その後、建設コンサルタントで5年間勤め、さらにフソウに転職して1年ほどが経ちました。
転職したのは、他業種のプラント設計に携わってみたいと思ったからです。
――転職先として、なぜ下水道を選んだのですか?
押川さん 火力発電所や化学プラント、焼却設備などいろいろ検討する中で、下水処理場に出会いました。漠然と水処理をする施設というイメージは持っていましたが、その役割をきちんと理解し、いかに重要なインフラであるかということを初めて知りました。それでさらに調べてみると、微生物を使って水処理をしていたり、機械もありますし、化学も必要ですし、電機も設備もたくさんあって、これはおもしろいと感じました(写真1)。
――メタウォーターの丹治さんはいかがですか。
丹治さん 前職は商社です。30年以上のビジネスパーソン人生は人事畑一筋で、勤め先も一社だけだったので、残り数年間の会社人生をまったく異なる業界で人事を経験したいと思ったのが転職のきっかけです。
商社の仕事はインフラを支えている側面がありますので、転職先としてはインフラ関連やサステナビリティに取り組んでいる会社、なおかつ人事面で新しい取り組みにチャレンジしている会社を探していました。そこで転職エージェントから紹介されたのがメタウォーターで、2020年4月に入社しました。
――メタウォーターは知っていましたか?
丹治さん 社名すら知りませんでしたね。そこでホームページを調べたところ、日本の水・環境インフラを支えていると同時に、海外でも事業展開している。これから水資源は非常に重要です。それを国内外でしっかりと支えることは意義がありますし、企業理念にも共感しました。
また、人事面では前職で実現できなかった週休3日制を導入していたり、コロナ禍前からテレワークも取り入れている。それほど大きな会社ではないのにそこまでやれるんだということに驚きもあり、おもしろい会社だなと思いました。
――NJSの久田さんはいかがでしょうか。
久田さん 前職は大和リースという会社に勤めていました。大和ハウスの子会社で、被災地の応急仮設住宅やプレハブの建設がメイン事業で、そこから波及して学校、庁舎などの公共施設、事務所や商業施設などの民間建築、PPP・PFIやPark-PFI、さらには商業施設の開発・運営、緑化や自動車リース、PPAなどのエネルギー関連事業なども手掛けている企業です。
入社して9年間ほどは建築設計を担当していたのですが、もっと顧客に近い仕事がしたいと思い、PFI事業を専門とする社内組織「民間活力研究所」(以下、研究所)に異動させてもらいました。職種も変わったので、技術を知った営業として、技術部門と営業部門の両方に口を出すマルチプレイヤーの動きをすることとなりました。
――上下水道事業にもPFIが導入されています。研究所で上下水道PFIを経験されたのですか?
久田さん 「地上」の大きなハコモノの公共施設が中心で、PFIの代表企業として、大手設計事務所やスーパーゼネコン、維持管理企業や運営企業等をまとめあげる、代表企業のプロジェクトリーダーを担っていました。「地下」の上下水道は経験しませんでしたが、その代わりと言っては何ですが、NJSに転職してからも縁が続いている、岩手県大船渡市の賑わいづくりに関わらせていただいています。
大和リースはそれまでにも応急復旧には携わっていましたが、復興には携わっていなかったんですね。だから、東日本大震災ではそこにチャレンジしたかったんです。私は関西の出身で、阪神淡路大震災の時は15歳で何もできなかった。次に何かあればやらなければという使命感もあって、復興担当に名乗りを上げました。
最初に大船渡市に入ったのは2014年で、地元の方からヨソモノ扱いで受け入れてもらえませんでした。阪神淡路大震災で抱いた使命感を訴え、ここでやらせてほしいという熱意が通じ、同じ復興を目指す同志として迎え入れていただき、復興の大きな節目となる商業施設の開業までの3年間携わらせていただきました。
研究所に戻ってからは再び公共施設の建設に関するPFI事業を担当したのですが、人口が減少する中で大型のハコモノを作り続けていいのかと考えるようになりました。水インフラも含めた公共インフラの老朽化が問題視されるようになった頃です。
極端なことを言うと大きな文化施設がなくても生きていけますが、水インフラがないと生きていけない。まちづくりの経験やノウハウを上下水道業界で活かせるならチャレンジしたい。そう考えました。NJSには2022年に入社しました。
――ところで、丹治さんはメタウォーターがそれほど大きな規模ではないとおっしゃっていましたが、水業界では割と大きめの会社だと思います(笑)。丹治さんの前職はかなり大きな会社だったのですね。
丹治さん そうですね。メタウォーターの社員数は単体で約2000人、連結で約3000人くらいですが、前職は単体で6000人規模でした。
――人事の業務内容はあまり知られていないかもしれません。少し教えていただけますか。
丹治さん 採用から始まって、入社後は研修、給与の支払い、人事評価、昇格、キャリア形成、最後は退職、年金管理まで、一人の社員の企業人生をすべて見るのが人事です。前職ではそのすべてを一通り経験しましたが、いかんせん社員数が多いので採用担当の時は採用のみ、研修担当の時は研修のみ。一度に一気通貫ですべてを担当することはできませんした。
メタウォーターの規模なら、最初から最後まで社員をサポートできます。水・環境インフラという社会に欠かせない事業、そして循環型社会の形成にも貢献できる業界で、これまでの経験を生かしていきたいです。
――上下水道業界では技術や、官民連携などの事業運営がとかく脚光を浴びますが、それら表舞台を支えてくれている管理部門の存在を忘れてはいけませんね。とりわけ人事は業界の未来を支える大切なヒトを育てるとても大切な仕事です。
丹治さん 今回の対談のお誘いをいただいた際、人事畑の私ではテーマにフィットしないとも思いましたが、そう言っていただけるとうれしいです。
押川さん この業界で表に立つのは技術や工事部隊ですが、総務や人事の人がいないと設計も工事もできません。ありがたみは常々感じています。
――新卒で入社するにしても転職するにしても、その会社で初めて会うのが人事の人なわけですから、会社の顔のような存在ですね。
丹治さん インターンシップや会社説明会などで入社希望者に最初に接するのは人事の人間です。そこで魅力を感じてもらわないといけません。今は売り手市場ですから、選んでもらえる会社になるために人事の役割は大きいと思います。
押川さん 私の場合は転職サイトに登録していた経歴を見た人事の方が、異業種にもかかわらず声をかけてくれました。自分から異業種に踏み出すことはためらう人が多いと思いますが、私は人事の方のおかげでチャレンジしてみようという気持ちになれました。
上下水道業界のイメージあれこれ
- 丹治氏 仕事に対する使命感が強い
- 押川氏 清潔な下水処理場に驚き
- 久田氏 もっと自己PRすべき
――異業種の方から見た時に上下水道業界はどのようなイメージなのでしょうか。そして、入社後にその印象通りだったのか、あるいは印象が変わったのか。丹治さんから伺えますか。
丹治さん 文系出身者が多い商社に比べ、水・環境インフラの業界には、技術職が多くて、エンジニアリングや設計色が強い「堅い」イメージを持っていました。コミュニケーションや思考、発想がロジカルと言いますか、まずデータがしっかりあって、それに基づいて行動する。なおかつ行政を相手にする仕事ですから、良くも悪くも、まじめなお堅い会社で、商社とはぜんぜん違う雰囲気だろうなと想像していました。
実際に入社してみると、人事部門に関しては前職と比較してカルチャーショックと言えるほどの大きな違いは感じませんが、全社的に見ればまじめで堅いところは想像通りでした。
驚いたのは、使命感を持っている社員が多いこと。自分たちが水・環境インフラを支えているという誇りや責任感がベースにありますから、必然的に仕事の姿勢も真面目な社員が多いです。
――社員の使命感はどのような場面で感じたのですか。
丹治さん メタウォーターでは新人から管理職まで、さまざまな階層を対象に研修を行っています(写真2)。その際に業務への思いを聞く機会があり、どの階層の社員も一貫して、水循環を守ること、水・環境インフラ持続への貢献を口にします。仕事に対する責任感や誇りが、社員ひとりひとりのアイデンティティになっていると感じます。
――押川さんも上下水道業界、あるいはフソウは堅いというイメージでしたか。
押川さん そうですね。公共インフラに携わる業界で、上下水道行政が相手になりますから、より堅そうだと想像していましたが、フソウはそこまで堅いという印象はありません。
――仕事面で想像と違ったということはありましたか。
押川さん 下水処理場ですね。汚いというイメージだったのですが、実際に下水処理場やポンプ場に行ってみるとそんなことはありませんでした。下水処理場の維持管理者の方のおかげで、清潔に保たれていて驚きました。
また、一般人は立ち入り禁止で閉鎖的だと思っていたのですが、実際には見学者を積極的に招き入れていて、とてもオープンな空間であることにも驚きました(写真3)
――下水道はとかく汚い臭いというイメージが先行してしまい、働きたいと思ってくれる人が少ないので、もっと下水道を知ってもらおうと広報が重視されていて、見学会にも積極的です。ですが、業界外の人にとっては、まだ下水処理場に閉鎖的なイメージがあるんですね。ぜひ押川さんの周りの業界外の方々に、下水道の素直な姿を伝えていってほしいです。
続いて久田さんの上下水道業界へのイメージはどうだったのでしょうか。
久田さん 前職で付き合いのあった建設コンサルタントは扱うモノが地上部にあって、建物もそうですが、分かりやすくて派手に見えて、施設の利用者やまちの生活者とのつながりも想像しやすいこともあって、何というかイケイケなイメージ。それに対し、上下水道コンサルタントが扱うモノは地下部で、だからと言うと変かもしれませんが、おとなしい業界というイメージを持っていました。
そのイメージは入社後にさらに強くなりましたね。おとなしくしていてはダメ。この仕事の重要性をもっともっと伝えていかないといけないと思います。
とはいえ地上で見たり触ったりできる施設とは異なり、上下水道は地下にあるので子どもにも分かりやすく伝えるのは難しいですね。総務や人事部門から、上下水道コンサルタントの仕事を子どもにどう伝えればよいかと相談を受けることがあり、自分自身もいろいろと考えていきたいと思います。 (つづく)