”広告”という表現で「水循環に関わりたい」を仕事の選択肢にしたい

HYPE FREE WATER:「水曜日のカンパネラ」初代ボーカリスト・コムアイと、アートディレクター・村田実莉の挑戦

HYPE FREE WATER「贅沢な水分補給〈紙パックの飲料水〉Hydration Lux 3」。
公園の水飲み場で優雅に過ごしている映像や、雨水を循環させている映像なども制作している。

2020年に始まった「HYPE FREE WATER」とは、「水曜日のカンパネラ」初代ボーカリストで、音楽活動を中心にファッションやアート、カルチャーと幅広い分野で活躍するアーティスト・コムアイと、アートディレクター/ビジュアルアーティストとして表現活動を行う村田実莉によるクリエイティブチーム。水環境に関するフィールドワークをもとに、自然や水をテーマにしたアート作品を制作するとともに、環境問題に取り組むプロジェクトにも参画する。
HYPE FREE WATERの活動の目指すところや、理想の未来ってどんなものだろう?
マネージメントを担当するエリンガム梨那さんに、チームについてお話を伺いました。

なぜ水はFREEなのにFREEじゃないの?

「HYPE FREE WATER」の活動とは、どのようなものなのでしょう?

FREEとは「自由」という意味と同時に「無料」という意味もありますよね。

まずふたりが活動をスタートするきっかけになったのが、「どうして水は本来自然から分け与えられ、無料で手に入るのに、ペットボトルで売られているのだろう?」という疑問を抱いたことでした。水は生きるためにはなくてはならないもので、だからこそ共有資産としてインフラも整備されている。なのにどうしてそれが商品(お金)になるのだろう?

そこからコムアイと村田実莉のふたりで水に関するフィールドワークをはじめ、そこで得られた学びや、新たに生じた疑問から「架空の広告」としてアート作品を作り始めました。これが活動のひとつです。

言葉だけでなく視覚でもメッセージを届けたい

回収した使い捨てカイロで水を浄化するプロジェクトを行う「GoGreenGroup」とのコラボレーション。江ノ島海岸のビーチに漂着したゴミを拾い、それらを活用している。

フィールドワークの中では、本サイトでも紹介している「WOTA」(「小規模分散型水循環システム」を開発した、日本のスタートアップ企業)のCEO・前田揺介さんとも対談されていましたね。

■WOTAの記事はこちら「デザイン&テクノロジーで水インフラの変革に挑む」

はい。最初に抱いた疑問からスタートして、自分たちなりに水問題に対して一歩踏み込んでいくために、専門家や有識者に話を伺っています。海洋大学教授で水圏環境教育学研究室代表の佐々木剛教授には、自然環境への生活排水などの影響についても教えていただきました。

やはり水について考えていくと、上水についてだけではなくて、排水、下水の循環についての疑問にたどり着きます。そこで、水の循環について新しいチャレンジをしているWOTAさんにもぜひお話を聞きたいと考えました。

アースデイ東京とファッションレボリューションジャパンの共同企画にて行われたサステナブルファッションウィーク2020+1(ファッション業界の透明性や、地球環境へのアクションを訴える
グローバルキャンペーン)のキービジュアル。

学んだことのアウトプットとして、広告という表現を選んだのはなぜでしょう?

自分たちの中に生まれた疑問や学びを、どんな人にも受け取りやすい形で提案したいというのが大きな理由です。水問題も含めた地球環境の課題は、地球全体の問題だけれど、自分ごととして考えるのは難しいと感じる人も多いはず。だから、どうしても言葉だけでは伝えきれない部分もあります。

ビジュアルアートという表現で、広告制作にも関わってきた村田実莉と、表現者であるコムアイのふたりがタッグを組むことで、左脳(理性)だけでなく右脳(感性)に訴えかける広告表現になったのはごく自然なことかなと思います。

そしてもうひとつの理由としては、いつかは水に関わる企業と協力して、課題を解決したいという想いがあるからです。

ひとりひとりが「水を大事にしよう」という草の根活動はもちろん重要ですが、企業など大きな組織が動けば、問題解決のスピードも速くなります。飲料関連や、水循環に関わる企業とコラボレーションして広い層に「水の循環を考えよう、水問題を解決していこう」と訴えかけていけるようになりたいと考えています。

これまではどちらかといえば部活動的な要素が強いプロジェクトでしたが、2021年には、アースデイ(毎年4月に行われる、地球環境への支援を示すイベント)とファッション・レボリューション・ジャパン(バングラディシュのラナプラザビル倒壊事故をきっかけに、ファッション産業の在り方を考える非営利団体)が共同開催した「サステナブルファッションウィーク」のメインビジュアルをHYPE FREE  WATERで担当したり、国際環境NPO「weMORI」の広告映像として、NFT(コピーや改ざんが不可能なデジタルデータ)のアート作品を制作しました。

森林再生に取り組む国際環境NPO「weMORI」の広告映像。
NFTアートとして販売されており、収益の50%がマダガスカル島の植林活動へと寄付される。NFTマーケットは、通常のエネルギー使用率の1/100程に低減できるProof of Stakeの仮想通貨Tezos Coinを使用した「OBJKT.com」を活用。

また2022年には、池袋パルコのメインビジュアル制作とともに衣類回収ボックスを設置し、来館者の方に古着の再利用を促す機会もいただきました。プロジェクトに関わる人たちが楽しみ、学びながらも仕事として成立させていくのも、活動の大切な目標ですね。

今後、HYPE FREE WATERとして伝えていきたいこととは何でしょうか?

これは私個人の意見でもあるのですが、水はすべての事柄に関係するものですよね。そもそも人間の体は7割が水で支えられている。だから水の周りにある課題を考えることは、すべての問題の解決につながることだと思います。

だからこそ、水について知ることや、考えることは本当に面白い。地球がまだ何とかなるうちに、できることはやっていきたいと思うし、たくさんの人にその想いを伝えて、共有できたらと考えています。

そしてもうひとつは、インフラに関わる人はかっこいいんだ、すごい仕事なんだということも伝えたいです。「農業を仕事にしたい」とか、「酪農家になりたい」とか、仕事の選択肢のひとつとして「水循環に関わりたい」というのがあってもいいと思うし、そうであるべき、大切な仕事だと思います。