これからの下水道サービスがどのような姿になっていくのか、どのような姿であれば持続可能なのか、持続させるにはどのような方策が必要なのか。下水道と深く関連しながらも協働することが少なかった都市計画、まちづくりと関連させながら、下水道のプロと都市計画のプロに議論していただいた内容を3回にわたってお届けする。
岡久宏史氏 日本下水道協会理事長(右)
宮崎市都市整備部長、京都府土木建築部下水道課課長、国土交通省下水道部長、日本下水道新技術推進機構専務理事、積水化学工業官需事業企画開室長などの要職を経て現職
佐々木晶二氏 日本災害復興学会理事(左)
内閣府防災担当官房審議官、民間都市開発推進機構都市センター副所長兼研究理事、国土交通政策総合研究所長などを経て現職。被災市街地復興特別措置法立案、津波復興拠点整備事業等復興事業の予算要求立案など
都市開発の収益を下水道に還元
佐々木氏 下水道事業と都市計画を連携させるには、それぞれの行政分野にメリットがいる。都市計画サイドから一般論としてスマートシティへの対応を求められても、下水道としては苦しい。シュリンクするとしても30年、40年かかるわけだし。
例えば、まだ都市部や政令市では都市開発をやっていて、収益も事業者も集中している。そこで事業者のインセンティブを誘発しつつ、事業者が得た収益の一部を下水道の再整備につなげられないか。総合設計制度の基準として、下水道の改良をすると容積率を緩和する、というのもありかもしれない。
都市計画の予算を直接下水道に使えるわけではないけれど、民間事業者を介して間接的に下水道を支援する。これは今後の新たなテーマとしてはある。
岡久氏 下水道はこれまで、都市計画に対しては受け身だった。まちの膨張に一生懸命に追いつこうと、下水道を整備することに必死だったし、精一杯だったから。
佐々木氏 これから予算がなくなるのは都市計画も下水道も同じだから、お互いにメリットを与え合おうという発想がいる。
都市計画では容積率や開発規制を緩和して、事実上、民間資金を活用している。下水道は都市開発に深く関係しているのに、容積率の緩和や事業者に負担を求める仕組みを使って、開発で得られる収益の一部を下水道に回すという発想はなかった。
これからは下水道だけで資金調達を考える必要はないし、同じ静脈系のゴミ問題なんかも含めて連携できれば面白い。
下水道で循環都市を作る
佐々木氏
佐々木氏 例えば、まちの真ん中に下水処理水でせせらぎをつくったり、ビルに中水を供給したりして、見える形で社会貢献して、エコタウンとして土地のブランドを高める。それが具体的な収益として開発事業者のメリットになる。その代わりに下水道の維持費の一部を負担してもらう。そんなことを考えても良い。
岡久氏 最近は下水道資源からのエネルギー回収も進んでいる。品川シーズンテラスでは、下水処理施設の上にビルを建てて、そこで再生水の利用や下水熱を使ってビルの冷暖房をやっている。
CO2削減にもつながるから、下水熱やバイオマス活用はもっと大々的にやればいいと思うが、日本人の悪いところは新たな技術のアイデアが浮かんでもコストがかかり、ペイしないとなると企画段階でポシャってしまうこと。面白い技術があるなら国が財政支援して、赤字を補填するぐらいのことをやるべき。そうすることによって技術が進歩し、画期的な新技術が生まれる。
下水道のキーワードは循環だ。水も物質も全て集めて循環させられる。“下水道が作る循環都市”のイメージで都市のプランニングができれば面白い。
佐々木氏 循環都市構想をブランディングして、それを推進するためのプラットホームを作る。カネもヒトも下水道だけでやるのではなく、プラットホームに都市計画も地方公共団体も地元も巻き込んで、さらに民間も巻き込んで収益事業的なスキームが描ければ可能性はありそう。
岡久氏 それを考えていくなら、下水道がまちづくりにどう役立つか、を一度立ち止まってきちんと考え直した方が良い。今まで、再生水を持っているからせせらぎを作ろうとか、エネルギーを持っているから地域冷暖房に使おうという発想だったけれども、下水道の独りよがりかもしれない。
水があります、バイオマスがあります、熱があります、これらを利用しない手はない、と下水道サイドの思いで考えてきた。発想の順番が逆ではないか。つまり、まちが何をどうしたいかを的確に把握し、それならこれをこういう風に使えますよ、と提案していかないと、下水道の社会貢献度はどんどん低くなる。漠然とそんな危機感を持っている。
下水道も地域活性化に貢献したと考えているけど、そのまちが将来どう活性化したいのか、再生したいのかといった情報には全く無頓着で、提案しても、ダメだよね。
空間も資源も「ご自由にお使いください」
岡久氏
岡久氏 下水道は下水処理場として土地や施設の上部空間を持っていて、管渠もたくさんあって、それらをいかに民間にマネジメントしてもらうかということが課題になっているけれど、下水道が持っているものすべてを開放して「お好きに使ってください」と言えば、資源も循環できて、収益にもつながるおもしろいアイデアが民間から出るかもしれない。下水処理場内のスペースを使って、保育園とか老人ホームとか経営するなんて言うのも良いのではないかな。
佐々木氏 現状のコンセッションは維持管理分野だけだけど、民間に下水道の空間などを使って収益事業をやってもらう発想があってもいい。
今までならその収益が開発事業者に集中してしまったけど、下水道を活かすという観点から都市計画し、開発することで、下水道に収益を還流させる仕事を作る。そのことに、下水道はもっと主体的に関与してもいいはず。
岡久氏 そういう発想は今までなかった。
佐々木氏 下水道事業者が自分たちの守備範囲を下水処理場と管路とメンテナンスだけだと縛っているから、つい受け身になる。受け身的にまちの排水を処理するだけじゃなく、上部空間も含めて考えることで、下水道の立場は強くなるし、お金の周りが良くなれば技術革新にもつながる。
下水道の財産、空間、エネルギーを自由に使えるようにすれば、前向きな人は主体的にやりはじめるんじゃないかな。まずは下水道資源を使って小さなサイドビジネスをやって、収益を下水道に還元できるように自由化してみては?
下水道の空間を使ってまちをどう再開発するか、再開発したまちで再生水をどう使うか。そうしたことは開発事業者も気づきにくい。資源を持っている人が自分で活用する手段を考え、民間に使ってもらって、使用料を下水道管理者がもらえばいい。
岡久氏 儲かった分を還せと国が言わなければね(笑)
面白い発想だと思うけど、危険だしメンテナンスの邪魔だから下水処理場には通常は人を入れない、という発想がある限り変われない。
補助金適正化法の問題もある。下水道としての役目を果たしていれば、余った土地や施設をどう使おうが、金儲けしようが構わないと思うが、目的外の使用はなかなかハードルが高い。
佐々木氏 確かに下水道管理者と企業が一緒にプロジェクトをやって、一緒に儲けることができないと、下水道管理者も首長も本気にはなれない。
岡久氏 管渠の内部の空間を使えば、と言う人もいる。雨水貯留施設の空間はものすごく広いから、使っていいよって開放するとアイデアが生まれるかもしれない。極端だけど、雨の降らない日は居酒屋にするとか。
佐々木氏 地下のパルテノン神殿とか言われてますよね。使わないなんてもったいない。
岡久氏 今は下水処理場は二次元的な施設配備だけど、それを立体化して、あるいは、地下に埋めて、そのようにして生み出した土地を自由に使ってもいいということにして、大胆に再構築のオファーを出してみる。
そうなれば発想が変わってくるかもしれない。下水道界にも変わった人がいっぱいいるから(笑)
つづく
(進行:MizuDesign編集長 奥田早希子)
(撮影:佐々木伸)
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