【PPP新戦略】多様な契約形態に応えられる組織に

メタウォーター、酒井雅史執行役員PPP本部長に聞く

酒井雅史氏(メタウォーター株式会社、執行役員PPP本部長)

さまざまな経験を強みに

――2008年に横浜市水道局川井浄水場で、日本で初めて浄水場全体の更新と運転・維持管理(以下、運営)を一括して行うPFI事業を受託してから10年が経過した。

「契約スキームや事業範囲、事業期間が異なる様々なPPPを経験したし、川井浄水場での運営業務も5年目をむかえた。別の浄水場では原水変動への薬品対応をはじめ水道料金滞納にともなう給水停止措置など様々な経験をした。それらすべてを次に生かして当社の強みとしたい」

――PPP案件に変化は感じるか。

「川井浄水場の受託範囲は相当広いが、他の案件でも浄水場の更新整備と場外の送配水施設を含めた運営業務を民間に委託する案件も出てきており、業務範囲が広くなってきたと感じる」

――それに合わせ御社の組織も変化したか。

「PPP専門の部署ができてから6年が経ち、上下水道分野だけでも30件のPPP案件を手掛けた。この間、人員はおよそ1・5倍に増えた。

当社は富士電機と日本ガイシの水・環境事業部門が統合して誕生した会社だが、現在はどちらの出身でもない“メタウォーター入社”の社員が多い。PPPという新しい事業に取り組むにあたり、あえてゼネコンやコンサルタントなど、ダイバーシティに富んだ人材確保に努めた結果だ。現場を含めて本当のPPPを実感できるだろう、という期待を持って入社してくれる人もいる」

目指すは設計・建設と運営の全体最適

――将来的に目指すPPP像は。

「コンセッションが騒がれているが、最終目的とは思っていない。あくまでも1つの契約形態にすぎない。100の自治体があれば100通りの事業のやり方がある。その多様性に応えられる会社でありたい。様々な経験をしてきたつもりだが、分かっていないこともある。まだ道半ばだ」

――運営の受託が増えているが、プラントメーカーのイメージは強い。

「確かに今もプラントエンジニアリング事業の利益貢献度は大きい。しかし、PPPを含むサービスソリューション事業が着実に伸びており、その比率は6対4だ。今後もPPP受注拡大に力を入れる」

――社員の意識改革も重要だ。

「設計・建設の期間は長くても5年程度だが、運営は建設してから20年近く現地に張り付く。つまり、建設する時から20年先のイメージがいる。

建設コストを抑えすぎると運営で手間がかかるかもしれない。建設と運営をいかにバランスさせるか。設計・建設経験の長い社員は運営の発想になり切れないところがあるが、全社員がその目線を持ち、全体最適を考えられる組織にしたい」

コンセッションへの挑戦

――今後の展望は。

「やはりコンセッションには挑戦していく。

コンセッションを手掛けるSPCは経営面での独立性が強く、従来の包括委託やPFI、DBOとは全く異なるものだと考えている。これまでなら設備工事は当社のような構成企業に発注することが圧倒的だが、コンセッションでは必ずしもそうとは限らない。

設計・建設と運営の一体という当社のメリットは生かしつつ、さらなる低コスト化、最適化を図ることになる。当社が受託している熊本県荒尾市水道事業等包括委託業務では、汎用ポンプをSPC構成企業ではなく地元企業から調達するといった事例が出始めている」

――コンセッションのリスクをどう見るか。

「例えば工業用水道の場合、域内の企業が撤退するといったコントロールできないリスクは民間では負えない。断水して稼働休止した時の保証はどうかなど、自治体との契約にも目配りし、民間が取れるリスクの見極めが必要だろう。

パイプは地中に埋まっていて現状が分からないのでハイリスクと言われるが、荒尾市で3年間かけてパイプ管理を経験し、肌感覚でリスクの大きさが分かってきた。確かにリスキーな部分はあるが、契約を交わすことでリスクヘッジは可能だ。例えば、処理施設は性能で保障し、パイプは仕様発注にして更新予算を別に組んでもらうという2本立ての契約もあっていい。

コンセッションにしたからといってすべてが民間の責任になるのではなく、自治体とリスクについて事前に協議し、責任を明確にしておくことが大切だろう。最後の意思決定者はだれかを決めておくことも重要になる。もちろん最初からすべてのリスクが契約で網羅できるわけではない。不備があったら見直せばいい。公民が互いに向上心を持ってベストな契約にしていく努力が求められる」