「ユネスコ食文化創造都市」の一翼を下水道が担う

山形県鶴岡市、農家の経営改善にも貢献

 山形県鶴岡市では、数百年にわたり50種類以上の在来作物の「種」が守り継がれ、精進料理など行事食・伝統食も数多く継承されてきた。2014年には「ユネスコ食文化創造都市」にも認定された。古くから受け継がれてきた食文化の一翼を担うモノとして、今、期待が高まっている事業がある。食とは関係なさそうに思える下水道である。

下水処理水で飼料用米を栽培

右から苗を植える皆川治鶴岡市長、「水の天使」浦底里沙さん、村山秀樹山形大学農学部副学部長

 5月24日、鶴岡市浄化センターに隣接する田で田植式が行われた。広さは30アール、植えているのは飼料用米「ふくひびき」で、田に引き込まれているのは下水処理水である。

 下水処理水には飼料用米の生育を助ける窒素、リン、カリウムという肥料成分が含まれている。しかも、従来は川に放流していただけの“ただ同然”のものだ。それで飼料用米を育てられれば、肥料は不要になるか、減らすことができ、肥料コストを削減できる。農家の経営改善にもつながる低コスト型の飼料用米の栽培方法として注目される。

 鶴岡市と山形大学農学部が共同で取り組んできた。鶴岡市浄化センター内に作った実験用田んぼで行った栽培実験では、良好な生育結果が得られている。同学部の渡部徹教授によると「特に牛や豚の成育を助けるたんぱく質の含有量が多い」という。そのことから、同センターに隣接する実際の田んぼを地域住民から借り受け、本格的な実証実験を開始することとなった。

 皆川治市長は「下水処理水で飼料用米を栽培する取り組みは、広い意味で鶴岡の食文化の一翼を担う。本当の田でも成功すれば、他地域でも取り組める。下水道と農業との新たな可能性を見出せるよう、市としても積極的に取り組んでいく。(川に放流するだけだった)下水処理水を活用することで、農家の経営にも貢献できるような仕組みが作れれば」と期待を寄せる。

国交省も注力する「ビストロ下水道」


農家から人気の高い下水汚泥コンポスト「つるおかコンポスト」

 下水処理水をはじめ、下水汚泥や下水熱など様々な下水道資源を使って農作物を育てる取り組みは「ビストロ下水道」と呼ばれ、国土交通省下水道部が力を入れている事業の一つだ。同市の取り組みも、同事業の一角に位置づけられている。

 同市は“下水汚泥の全量緑農地利用”を目標に掲げる。市内の農家では30年ほど前から、汚泥コンポスト「つるおかコンポスト」が有機肥料として農家で使われ続けてきた。鶴岡市コンポストセンターの河野勝副統括によると、昨今の自然派志向の流れと、自治体による徹底した製品管理を背景に、未だ根強い人気を誇っているという。

 直近では約3860トンの脱水汚泥から、566トンを製造した。特産品であるだだちゃ豆をはじめ、トマトやナスなど様々な農作物の栽培に活用されている。これら取り組みにはJA、地元企業の東北サイエンス、水コンサルタントの日水コン、水処理プラントメーカーの水ingも加わり、産官学がタッグを組んでビストロ下水道を進めている。