公共施設の建築系を中心に多くのPFI案件を手掛けてきたパシフィックコンサルタンツが、上下水道や道路などインフラ系でも存在感を増してきた。上下水道コンサルタントが主流を占める上下水道分野において、建設コンサルタントならではの視点で新たな風を吹かせられるか。重永智之専務に、PPP戦略を聞いた。
重永智之氏(パシフィックコンサルタンツ株式会社 代表取締役専務)
儲ける仕組みが必要
――上下水道PPPの現状をどう見ているか。
「上下水道のコンセッションには、民間が儲けられる仕組みが必要だろう。使用料収入だけではなく、例えば下水道資源や空間など“儲ける場”がもっとあれば、コンセッションの取り組みは進むのではないか。
下水道管路については、これまでの研究で点検データを分析すればライフサイクルコストを大幅に削減できることが分かった。今、富士市から5年契約で管路施設の巡視・点検業務を含む包括的民間委託業務を実施しているが、そのように複数年契約でデューデリジェンスからはじめていくことが堅実だと考えている」
地域のインフラをトータルにとらえる
――建設コンサルタントとしてどのような上下水道PPP像を目指しているか。
「先述したように、上下水道PPPには儲ける仕組みがいる。愛知県有料道路コンセッションでは物販、飲食が可能だし、当社が出資している高松空港コンセッションでは物販や飲食、着陸料などで利益を上げられる。
こうした“合わせ技”に上下水道でも挑戦したい。下水汚泥の消化ガスや下水熱利用、空間などはもっと活用できる。そして下水道を突破口として道路や橋梁、公共施設まで含め、地域のインフラとハコモノを一括で維持管理しつつ、まちにあるすべてのインフラを使って観光事業もやる、電気供給もやる“社会サービスプロバイダー”を目指していく。
下水道だけ、水道だけ、ではなく、ハコモノを含めてインフラ全体をトータルにとらえ、地域経営や地域活性化を提案できる点は建設コンサルタントの強みだと思う。
また、PFIのアドバイザリー業務件数で日本最多の実績もある。民も官も両方の気持ちが分かることも強みだろう。常に地元企業と協働し“ローカルファースト”の理念で進めていく」
売電収益を地域に還元
――PPPにおいては計画など従来のコンサル業務にとどまらず、事業運営にも着手した。その狙いは。
「人口減少と財政難を背景に、公共サービスの中でも民間でもできるサービスから順にそぎ落とされていく。究極は警察と消防くらいしか残らないかもしれない。当社は67年にわたって公共事業に関わってきた立場として、民間でできる公共サービスを担っていく責務があると考えている。将来的には社会サービスプロバイダーとして地域経営に携われればと思っており、そのためには計画だけではなく事業運営の経験とノウハウも必要になる。
例えば滋賀県の『道の駅せせらぎの里こうら』では、自らがプレイヤーとなって運営を指定管理で行っている。また、当社の子会社で電力事業を手掛けるパシフィックパワーと地元自治体、地元企業、金融機関などが共同出資して電力会社を設立し、電力小売り事業を行い、その利益を地域に還元する取り組みを全国8カ所で実施している。今後は上下水道予算への還元も模索してみたい。
地域には収益源が少ないが、電力は重要な収益の核となる。その収益を原資として、官が担いきれなくなった公共サービスを持続させ、地域活性化につなげられる」
サービスプロバイダー事業で20年に50憶円へ
――事業運営に乗り出すに当たり、組織改革は。
「事業担当の母体となる部署を5年前に設置し、2年前にサービスプロバイダー推進本部を正式に設置した。(2018年2月9日取材)
現場も含めて50人くらいいて、多様なバックグラウンドを持つ人間が集まった。全社的には土木系出身者が多いが、この本部には建築、都市計画、造船、経済など幅広く、中途採用も女性も多い。道の駅の駅長もいればイタリア料理のシェフもいる。
サービスプロバイダー事業の売り上げが今は10憶円ほどだが、それを2020年に50億円まで伸ばす。将来的には当社の事業の柱に育てたい」
――コンサル会社が事業を行うことについて、社内の反応は。
「社内での理解を得るのは難しい面もある。従来のビジネスモデルはそれなりに安定して収益を上げられるが、PPPや事業運営では投資回収に時間がかかる。そのかわり数十年にわたって投資に対する配当が安定して得られるのがインフラ投資のメリットのはずだ」
――社員の意識を変えるには?
「一緒にプロジェクトを経験させることだ。儲ける仕組みを肌感覚で理解できる。その経験者を地道に増やしていくしかない」
聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています