【PPP新戦略】アセットマネジメントで挑む

日本水工設計、藤木修社長に聞く

【PPP新戦略】では上下水道コンサルタント(水コン)各社のトップに順番に話を聞いていこうと思っている。今回は日本水工設計の藤木修社長に伺った。上下水道インフラの新設需要は先細っており、従来型のいわゆる設計会社のままでは生き残りが難しいのはどの水コンも同じだ。そうした中、同社は「アセットマネジメント」(AM)という新たな領域に挑戦を始めている。

藤木修氏(日本水工設計株式会社 代表取締役社長)

PPPの壁は高すぎる応札リスク

 ――上下水道PPPの現状をどう見ているか。

「浄水場・下水処理場と管路で分けて見ると、水質などアウトカムで監視できる前者はPPPが進んでいるが、できない後者は遅れている。

管路の特定箇所を改築・更生するために必要な投資額は分かるが、例えば、管路網の全体にいくら投資すればどれくらい道路陥没を減らせるかという問いに答えるのは至難の業だ。コンセッションや包括委託ではそれに対する答えをあらかじめ企画提案しなければならないのだから、応募する民間側にとっては応札リスクが高すぎて、二の足を踏むことになる。それが、管路PPPが進まない一因だろう。処理場や浄水場であっても、より包括的で長期間の案件は応札リスクがある」

PDCAは官民一緒に回すべき

――そこを乗り越える鍵はどこにあるか。

「プロジェクトに柔軟性を持たせ、民間側が契約後に学習によって最適解を見つけるというリアルオプション的なアプローチが必要だ。PDCAを回す過程を通じて、不確実性に対処する戦略が鍵となる」

――PDCAは現在も行われている。

「官と民が個別にPDCAを回していては、継続的な改善の有効性があやしくなる。コンセッションのように民間に多くを委ねる事業であっても、PDCAを民間に任せっきりにすべきでないことは、ISO規格の教えるところ。昨今の大手メーカーの不祥事の背景には経営層と現場との乖離があったのだと思うが、同じことが上下水道のPPPでも起こるのではないかと危惧している。

アセットマネジメント計画と比べて、PDCAの運用計画は軽視されがちだ。まずは民間に提案してもらう。プロジェクトが始動したら、官と民が協力してPDCAを回し、その過程で官民が一緒にノウハウを蓄積して共有する。それが大切だ。

不確実性のなかで正しい意思決定基準にどのように近づくかは、リアルオプションの問題でもある。そのためにはCとAが要になる。そこにこそ官が深く関与すべきだが、官側の技術職員が減っている現状では、我々水コンが支えるべき重要な領域と言えるだろう」

アセットが生み出す価値を最大化する

――御社が注力するAMとの関係は。

「PPPは“官が財政難で職員も減ってきたから民間委託する”という安直なスキームではない。パートナーシップで官と民が互いに知恵を出し合って、一緒にPDCAを回し、共に高みを目指すものだ。高みを目指す方向は3つある。り、1つ目はサービスレベルの向上、2つ目はコスト削減、3つ目はリスク低減。実はこれこそがAMである。

AMを一言でいうと、アセットが生み出す価値を最大化することで、財務マネジメントとのつながりが深い。AMは維持管理や改築更新に近い概念でとらえられることがあるが、それらはAMの一要素に過ぎない。例えば電鉄会社が観光地をPRして乗客を増やすこともAM活動と言える」

――余剰地なども含めて上下水道インフラが持つ資産を使い倒す方策を考えるということ。移住促進策まで提案することもありうる。設計中心できた水コンの、新たな地平が広がりそうだ。

「アセットの維持管理や改築更新の文脈でAMが語られることがあるが、それはAMとは『マネジメント・オブ・アセット』であるという誤解から生まれたもの。AMの領域はより戦略的で、それ故に、欧米やオーストラリア等のAM先進地では、ほとんど例外なく、コンサルタントがAMを先導している。

2017年5月には日本アセットマネジメント協会が設立され、同8月にはAMに関するJIS Q 55000シリーズが、国土交通省・経済産業省共管の規格として制定された。いよいよAMが本格化すると期待している」

――市場獲得に向けた戦略は。

「オリンピック後の景気の先行きは不透明だ。そこを生き残るために、社員にAM思考を根付かせたい。それが会社にとっても社員一人一人にとっても、武器になるはずだ」

聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子

※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています