上下水道PPP(官民連携)にはいくつかの節目があるが、最初は2001年のことだ。上水道では第三者委託制度が創設され、下水道では「性能発注の考え方に基づく民間委託のためのガイドライン」が公表された。あれから16年。浜松市で上下水道初のコンセッション事業がようやく始動したものの、動きは鈍いとの声も聞く。PPPは果たして上下水道を持続させる救世主となりうるのか。今まさにターニングポイントを迎えているように見える。【PPP新戦略】では、業界各社のトップに現状分析と未来戦略を聞いていく。まずは上下水道コンサルタント(以下、水コン)業界をリードする日水コンの野村社長に聞いた。
野村喜一氏(株式会社日水コン 代表取締役社長)
評価軸なしにPPPは進まない
――PPPの進捗をどう見ているか。
「想像したほどスムーズに進んでいないと感じる。価格だけではなく技術の斬新さや継続性など民間ノウハウを評価してほしいが、発注者(自治体)ごとに評価軸が定まっていない。PPPの成果を検証するための評価軸も定まっておらず、民間として何をどうすれば良いのかが分かりづらい。それが動きの遅い一因と考えている。
民間ノウハウがきちんと評価されなければ、フランスのように“利益重視の民間には任せらない”という結果になる。せっかく民間に与えていただいた活躍の場が崩れることを危惧している。それを避けるためには『評価者』が必要だ。発注者でも第三者組織でも構わないし、水コンが担うこともできる」
全体最適化を担いたい
――まちづくりの分野では『民間が主導、官が補佐』というPPPで成功例が出てきている。上下水道でも民間主導のほうが改善が進むのでは。
「その通りだが、多くの場合、何をPPPにするかの決定権は官側にある。下水汚泥の消化ガス発電事業だけを切り出してPFIで発注されたりするが、私の考えるPPPはこうしたパーツの切り出しではない。料金設定など官にしかできない役割はあるが、それ以外は広く民側に任せていただきたい。
例えば下水道では、エネルギー消費が多い水処理と、エネルギーを創出できる汚泥処理は、一括管理して初めて全体のエネルギー消費量を抑えることができる」
――全体最適という視点は重要だ。
「それが水コンの生命線だ。今はPPPであっても国費を使う以上は会計検査があり、処理の時間など“仕様”を細かくチェックされる。処理水質などの“性能”が守られていれば良いと思うのだが、現状は仕様に縛られて自由度が低く、全体最適につながりにくい。
ただし、これからは自治体の財政難と技術者減が相まって、性能発注に移っていくだろう。それを見越した準備が必要だ」
人事制度・組織改革に注力
――従来の設計会社的な水コンの事業領域を超えてくる。いかに対応するのか。
「PPP推進室やビジネス・イノベーション部を立ち上げたり、統括課長選抜制度を導入したりして、真正面からPPPに取り組めるよう人と組織の両面で基盤を整えている。
また、今後の主要市場である改築事業の計画・設計には、維持管理や建設の現場を知っておく必要がある。建設の現場を知るために建設マネジメント室を設けて建設業法にも登録した。これまで建設会社の一次下請けだったが、17年11月に下水道管渠の更生工事を元請けとして初めて受注した。企画、計画、設計、施工、維持管理まで一気通貫で関与できる体制が整いつつある。
これまで設計や施工など業務ごとの個別発注だったが、官側の技術者が減ってくれば性能発注とともに一括発注も増える。その際に官に代わって全体をマネジメントし、業界同士、企業同士をつなぐ接着剤でありたい」
――コンサルタントが主導していくのか。
「それくらいの気概を持って臨む。DBやDBO、ECIでプライムを取っていきたい」
――今後の注力は。
「アドバイザリーコンサルタントとプレイヤーの両面で事業拡大する。官側と民側の2つの立場で業務を行うことになるため、今まで以上に強い倫理観を持って業務を遂行する」
――売り上げ目標は。
「3年後に200億円を掲げている。これは難しい数字ではないが、その先はかなり厳しい。これまで話してきた変革が、苦境を乗り越える原動力になる。『社会インフラ全体から、我々技術者集団へ挑戦状を突き付けられた』との思いで臨む」
聞き手:MizuDesign編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています