メーカーvs下水道!「トイレに流せる」問題

お掃除シート、溶けるか溶けないか、やってみた

 筆者も子供の頃は雑巾でトイレを掃除していましたが、今やお掃除シートしか使いません。使用後はトイレに流せるので衛生的で、なんといっても手間が減ります。ところで、お掃除シートは水に溶けやすいのでトイレに流せるという触れ込みで販売されているのですが、下水道関係者からはポンプ場などの施設を詰まらせるとして厄介者扱いされていることをご存知でしょうか。

 ことの発端は1989年。この年、花王がトイレ用流せるお掃除シート「トイレクイックル」を発売しました。その後、他のメーカーも類似商品を発売し、結果として排水設備や浄化槽などで詰まりなどのトラブルが多発しました。これを受け、1993年にトイレットペーパーのほぐれやすさの規格「日本工業規格JIS P4501」が制定されました。

 しかし、これはメーカー団体が中心で作られたもの。下水道など排水施設のトラブルを防止するには緩すぎるということで、2014年から世界の下水道関係者がより厳しい国際規格ISOの検討を始めます。しかし、”流せるとうたっている製品”がトラブルの原因ではないとの立場に立つメーカー側との溝を埋めるのは容易ではなく、2016年にISO規格化は立ち消えになりました。

 そこで2018年6月、世界の下水道関係者が集まって下水道独自の規格「IWSFG規格」(国際下水道トイレに流せる製品問題検討会議)を発行しました。現在、日本ではIWSFG規格を国内に当てはめるべく「トイレに流せる製品の取扱いの手引き策定委員会」(委員長:森田弘昭・日本大学生産工学部教授)が検討を進めています。

 しかし、同委員会の事務局である日本下水道協会の関係者によると「メーカー側は”流せる製品は流せる””トラブルの原因は流してはいけない製品”との立場を崩しておらず」、IWSFG規格の国内への適用のめどは立っていません。実際、下水道施設を詰まらせたモノを調査した結果、メーカー側の主張通り流してはいけない製品だったとのことです。これでは、メーカー側も首を縦に振ることはできません。

 このように現在、メーカー側と下水道側が「トイレに流せる」問題を巡って対立しているわけですが、その間にも全国各地でお掃除シートが使われ、トイレに流されています。下水道側の主張が正しければそれが排水施設を詰まらせ、結果としてトラブル解消のために税金が投じられるのです。もはや和解を待ってはいられません。私たちひとりひとりが責任をもって”本当に流せる製品”を選択すべきです。では、どの製品を選択すればよいのでしょうか。

 ということで、早速、近所のドラッグストアで4種類のトイレ用掃除シートを買ってきました。

 まずはパッケージから見てみましょう。どの商品にも多少の表現の違いはありますが「使い終わったらトイレに流せる」という記載がありますが、先述したほぐれやすさ規格「JIS P4501」の基準を満たしているとの記載があるのはC 「M’s one 流せる大判トイレクリーナー」だけです。これは他商品と差別化しやすいですね。

 A「トイレクイックル」は、容器の中に入っているシートの袋には「トイレットペーパーと同じ溶けやすさ」との記載があります。また、サイトではJIS4501の基準を満たしていることを、実験を様子を交えながら解説しています(こちら)。こうしたことが陳列時でも確認できるような部分に記載があれば、商品選択の動機づけになると思います。

 さて、問題はメーカーのセールストーク通りに、本当に「トイレに流せる」のかどうかです。ということで、各商品のほくれやすさを調べるために簡単な実験をやってみました。水200mlにお掃除シート1枚(大判のものは半分)を入れ、箸1本で100回かき混ぜました。

 その結果、A「トイレクイックル」、B「エリエール キレキラ!」、C「M’s one 流せる大判トイレクリーナー」はきちんとほぐれました。


A「トイレクイックル」

B「エリエール キレキラ!」

C「M’s one 流せる大判トイレクリーナー」

ちなみにトイレットペーパーはこんな感じです。

 Dは駄目でした。2回繰り返しましたが、いずれもほとんどほぐれませんでした。

実はこの商品は筆者の愛用品だったので、ちょっとショックです。もちろん今回は素人実験ですから、JISに定められた手順で実験を行えば、基準を満たしている可能性はあります(かような事情により商品名は伏せさせていただきます)。とはいえ自宅の排水設備が詰まる可能性は少なくしたいですから、今後は別の商品を購入します。

 下水道側で検討されている「IWSFG規格」が国内に適用されるか否かはさておき、少なくとも「JIS P4501」という日本の規格はあるわけで、また、欧米のメーカー団体の規格「EDANA/INDA」というものを使っている国内メーカーもあるようです。賢い消費のためにも、それら基準を満たしていることを商品に記載していただきたいものです。

 最後に余談ですが、国土交通省下水道部は紙オムツを下水道で受け入れられるよう、つまり紙オムツをトイレに流せるよう検討を進めています。その一方で「トイレに流せる」製品に厳しい目を向けているわけですから、下水道内部においても施策に矛盾を感じます。一方、下水道に入った紙オムツはマイクロプラスチックの原因になるとの声もあり、その対策に注力する環境省との施策とも齟齬がありそうです。

 さて、トイレに何を流しましょうか?

(Mizu Design編集長:奥田早希子)