学生活動から始まった給水プロジェクトが日本水大賞を受賞

【寄稿】インドネシアの農村地域における村民主導型給水事業スキームを通じた給水人口率の改善

Webジャーナル「Mizu Design」で以前に紹介した、水会社の若手社員たちがパラレルキャリアで取り組んできたバリ島での給水プロジェクトが、第25回日本水大賞(2023年度)の国際貢献賞を受賞しました。メンバーの一人である小田嶋龍飛さんに活動内容を寄稿していただきました。

認定特定非営利活動法人 地球の友と歩む会/LIFE
インドネシア給水事業担当
小田嶋龍飛さん

はじめに

学生時代のインドネシア留学がきっかけで、バリ島郊外の村で給水事業を行っています。普段は日本の総合水事業会社で働きながら、仲間たちと協力すること約4年。多くの村民に水を届けることができました。そして今年、本活動は日本水大賞の国際貢献賞をいただきました。我々の「村民主導型給水事業スキーム」への挑戦、是非ご一読ください。

地球の友と歩む会/LIFEについて

我々は1986年から活動を開始し、現在は主にインドネシアのスンバ島で灌漑と農業支援を行っています。現地住民に主体的に参加してもらい、将来に繋がる支援が重要であると考えています。

インドネシア プダワ村給水事業の概要

インドネシア プダワ村について

プダワ村はインドネシアのバリ島北部に位置する、人口約5,500人の農村です。バリ島南部はリゾート地として有名ですが、北部では行政によるインフラ整備が遅れており、プダワ村の給水には多くの問題がありました。

プダワ村には3つの水源と6つの集落がありますが、当初は各集落がバラバラに給水事業を行っていました。集落間の給水サービスの質に格差が生じていた為、村民同士のトラブルも起きていました。また、村全体の給水普及率は約25%に留まり、給水管が接続されている家庭においても、水を2〜3日に1度しか使えない状況でした。結果として、村民の水浴びや洗濯などの衛生活動が制限されていました。

活動内容について

村民主体の給水事業スキームの構築

給水設備に必要な資材、支援金を一方的に提供するだけでは、持続的な給水事業は実現できません。そこで、現地の水道公社(PDAM)、ウダヤナ国立大学の環境工学部を巻き込み、村民主導型の給水事業運営スキームを構築しました。

まず、村民で構成されるプダワ村水道組合を立ち上げ、『プダワ村給水事業マスタープラン』を作成し、平等な給水の礎を築きました。

また、給水事業の持続性を担保すべく、現地ステークホルダーの参加インセンティブを工夫しました(図1)。本事業への参加を通じて、ウダヤナ大学は研究活動の充実化、PDAMは少ない業務負荷で、農村における水アクセス改善目標に寄与できます。行政の支援に依存しない本スキームは、バリ島現地メディアにも取り上げていただき、インドネシア国内での認知が広がっています。

図1.村民主導型給水事業スキーム

現地に適した給水システム整備

PDAM、ウダヤナ大学と協力し、現地に適した自然流下給水システムを整備しました。水源には、現地に自生するシュロの木皮を活用したフィルター一体型水路を導入し、水質および湧水の集水効率を改善しました。送水管は、配管シミュレーションソフトを用いて、現地に適した配管仕様、施工方法を選定し、漏水率を低減しました。現在、プダワ村中心部においては、毎日いつでも水が使えるエリアが急速に拡大しています。

水源工事実施前
水源工事実施後

平等な水道料金ルールの制定

水道組合と協議を重ねながら、給水事業に必要な費用、項目を算出しました。その上で、村民の平均収入を考慮しながら、村全体で一律の水道料金ルールを導入しました。(一家庭当たり、平均で約400円/月程度)

水道組合とのミーティングの様子

村民参加型にこだわる

給水事業に係る最終的な意思決定は、必ず村民に実施してもらいました。我々から一方的に“答え”を与えるだけでは、給水事業の持続性が薄れます。そもそも、村にとって本当に必要なモノ・コトは、現地で暮らす村民が一番分かっているはずです。我々は、サポートに徹しました。

給水事業の継続には、村民自身の理解促進も重要です。そこで、水道組合と協働し、本活動に関する説明会、SNSを通じた情報発信を村民向けに行い、『これはイケてる活動だ!』という雰囲気を醸成しました。結果として、村民の積極的な参与を促すことが出来ました。

村民への給水事業説明会

具体的な村民参加の例を挙げます。プダワ村には『ゴトンロヨン』という慣習があります。村の生活に関わることはみんなで話し合い、みんなで作業する文化です。今回の給水工事は、全て村民自身にゴトンロヨンで行ってもらいました。『自分の手を動かして、自分の水道を通す』ことで、給水事業を自分ゴト化してもらいました。

ゴトンロヨン(村民参加)による給水工事

プダワ村から学んだ、水と人のつながり

工事後の水源には多くの村民が集まり、感謝の祈りを捧げていました。また、本活動をきっかけに、村民が自発的に植林に取り組み、将来の水源に想いを馳せています。日本に比べて、『水と人のつながりが深いな』という印象を持ちました。

昔は日本においても、田畑の豊作を願い、土着の水の神に祈る祭事などが各地で盛んでした。しかし、水道が当たり前になった現代の日本人にとって、水に感謝する意識は薄れているかと思います。老朽化や人手不足など多くの課題を抱えた日本の水道インフラ改善には、『私たちと水のつながりを、どうやって取り戻すか』が重要だと、深く考えるようになりました。日本の水道の未来に関するヒントは、インドネシアの田舎の村にありそうです。

水源に祈りを捧げるプダワ村の村民

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