本業を持ちながら、社会貢献など非営利活動に取り組む「パラレルキャリア」という生き方がある。山田優志さんは「水」を軸にパラレルキャリアを実践する一人。東京とバリ島を行き来する。
大学院時代の友人と活動を共にする
山田さんは東京工業大学大学院の地球環境共創コース修士課程を修了し、2019年4月に上下水道の運営会社に就職した。普段は都内のオフィスに通い、日本の上下水道サービスを効率化する方策や、自治体と民間企業が協働する官民連携などを企画している。
一方、パラレルキャリアの舞台はインドネシア・バリ島の北部に位置するプダワ村。村面積16平方㎞、人口約5560人、6つの集落から構成されている。
山田さんは大学院時代、インドネシアのバンドン工科大学に留学した。そこで同じく留学していた中央大学大学院の小田嶋龍飛さん、東京工業大学大学院の建築学コースの阿部光葉さんに出会った。
阿部さんは伝統的な住まいを学ぶため、プダワ村で単身住み込み調査をしていた。そこで生活環境の改善を求める住民の声に行き当たった。中でも特に深刻であったのが水問題である。
そこで都市給水を学んでいた山田さんと下水処理を学んでいた小田嶋さんに相談を持ちかけた。ここからすべてが始まった。
本業が生きたプダワ村の水道事業計画
プロジェクトは19年3月の大学院修了と同時にスタートした。山田さんがプロジェクトマネージャー、国内の水処理プラントエンジ会社に就職した小田嶋さんがテクニカルマネージャー、日本とインドネシアを拠点に建築家(suha代表)として活動する阿部さんが現地コーディネーターだ。役割分担は申し分ない。
まずは現地を視察した。その結果、公的水道に接続している世帯は25%しかなく、漏水が顕著など運営管理レベルが低いことが分かった。
また、水道アクセスを持たない村民は水汲みのため遠方に何往復もしなければならず、不便を強いられているなど問題点が浮かび上がった。
村民への聞き取り調査からは、水質よりも「安定した水量の確保」を希望していることも分かった。現状は煮沸したら飲める程度の水質ではあったからだ。
ところが帰国後にシミュレーションしたところ、村内にある全3つの水源で水量は賄えそうだった。需要と供給をマッチングさせる水マネジメントの知識がないため、村民の感覚とズレが生じていたようだ。
絶対的に水量が不足している場合、給水施設に多額の投資が必要だが、それは不要。既存水源や配水管の管理を徹底し、未接続の家庭には自然流下方式で配水管を敷設すれば、投資は少なくて済む。
山田さんや小田嶋さんの本業のノウハウを基に、水道事業計画のドラフトがまとまった。それを携えて同8月に再度、現地を訪問した。
職場・上司の理解あってこそ活動が続く
しかし、村長や6集落の長などが集まる会議の席で、ドラフトはあえて開示せず、現状分析だけを示し、村民に議論してもらった。
その結果、管理組合の設置、組合長の選定ルール、事業計画や管理ルールの策定、貯水池の新設、水道管の修繕などを優先的に取り組むことが決まった。結果的にはドラフトと、ほぼ同じ内容であった。
「『やりなさい』ではなく、村民が考え、その結果として彼らの『やる気』を引き出す環境を作ることを意識しています」と山田さんは話す。「東京で働いて学んだことをプダワ村での活動に反映することで、水不足の解決の一助になるだけではなく、知識の定着にもなります。一石二鳥です」
今は特定非営利法人地球の友と歩む会を母体とし、同会の米山敏裕さんを総責任者として活動を続ける。
「プライベートとは言え、職場、上司の理解がなければ活動できません。本当に感謝しています」と山田さん。「水アクセスが悪い地域に水を当たり前に届けたい」と目を輝かせる。
本プロジェクトに関心がある方は山田さんまで。
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編集長 奥田早希子
※「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています