ぶれずに取り組んだ節水
CDPウォータープログラム(以下、CDP―W)は2015年の調査結果を基に、とりわけ水に対して真摯に取り組んでいる8社をAリストに選定した。実質的な企業格付けである。うち3社が日本企業だ。今回はその中から半導体メーカーであるロームの水マネジメントに迫る。
普通にやってきたこと
「正直なところ『えっ、我々でいいの?』と思いました」
工場での節水などロームにおける水マネジメントのあり方を追求し、実践してきた環境管理室の土井眞人室長にとっても、Aリスト選定は驚きだった。ロームがCDP―Wに回答したのは15年が初めて。しかも他国の機関投資家には敬遠されやすい日本語だけの回答だったからだ。
「水に関して特別な取り組みは何もないと思います。普通にやってきたことを回答しただけなんです」(土井室長。以下同)
悩ましい節水への投資判断
5.5万人分―。国内外のロームグループ各社が1年間に使用する水の量、約59億リットル(14年度)は、さきごろ世界文化遺産に登録された万田坑で知られる熊本県荒尾市ほどの町で消費される水量に匹敵する(※)。半導体製造の前工程であるウエハープロセスには、大量の超純水が欠かせない。質、量ともに、落とせば品質も落ちる。水は同社の生命線だ。だからこそ「水を汚さないというより、きれいにして還したい」。
阪急京都線の河原町駅から西へ3つ目の西京極駅で降り、住宅やスーパー、コンビニなど生活感のある花屋町通りを歩いて10分ほどのところに生産・開発拠点でもある本社がある。「京都の町中に工場があったので、住んでおられる方に迷惑をかけないように心がけています」。水を大切にする意識は、昔から社員の深層に根付いてきた。
土井室長の言葉からにじむ思いは、規制遵守の枠を良い意味ではみ出している。そのはみ出しは、やがて節水という行動に行きついた。しかし、プロセスを見直すにしても、水をリサイクルするにしても投資がいる。企業が利益を追求するものである以上、はみ出しという〝やらなくても済む〟ことへの投資はハードルが高かった。「水が豊富な日本でなぜ投資してまで節水しなければならないのか。水の使用量が多いといっても、生産コストへの寄与度は小さい。圧倒的に大きい電気代の削減がCO2対策の投資理由にはなっても、水使用料の削減では難しい判断になります」
BCPの重要な要素に
状況が変わってきたのは00年代から。グローバル企業の児童労働などが問題になり、企業の社会性に消費者が厳しい目を向けるようになった。CSR経営という言葉が出始めたのもこの頃で、同社も調査を開始。「ソフト・ロー(社会的な規範)にも順じなければ企業は存続できない」。そうした社会からの要請に対する1つの回答が水資源の保全であり、その手法として節水が位置づけられた。
10年度に節水計画を策定するという水関連では初となる環境目標が掲げられ、翌年には数値目標も設定。同時に環境からリスク管理、安全など部門横断的なCSR委員会も設置された。
この年、東日本大震災で製造拠点の1つであるラピスセミコンダクタ宮城が被災、工業用水が断水し、電気も止まって操業が停止した。従来、半導体製造工程排水のリサイクル(膜処理による水リサイクル)には取り組んでいたが、東日本大震災を契機に、更に水処理施設への耐震対策を強化させた。
ことここに至って節水は〝やらなくて済む〟ことから、社会に応える手法となり、BCP(事業継続計画)の重要な要素としても捉えられるようになった。渇水という異常気象への備えにもなる。
「水使用量の削減にぶれずに取り組んできました」。目標は20年度までに09年比で1割削減だ。「これまではインプットとアウトプットの量しか見ていませんでしたが、今後はセンサーなどを活用してプロセス内の水の動きをより細かく分析し、小さな工夫を重ねていきたい。昔は品質が評価されましたが、今は環境側面も評価されます。節水は企業のためでもあり、世の中のための目標でもあるのです」。
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同社は水リスクを今回焦点を当てた「水不足(渇水)」と「水過多(洪水)」という両極端な水の二面性で捉える。次回は水過多に対する取り組みを見ていく。
※人口は10年国勢調査、水使用量は「14年度版日本の水資源」(国土交通省)より都市活動用水を含め1人1日平均289リットルとして算出
※「環境新聞」( 平成28年2月24日号 )に投稿した原稿をご厚意により転載させていただいています
※記事PDF 「水が決める企業価値04」