<経営トランスフォーマー>10人目:深澤貴 「安全重視」で管路調査の産業構造を大変革

フジ地中情報 「低スペックでいい」と言い切るわけ

IoT・デジタル化、脱炭素、 SDGs 、コロナ、人口減少、整備時代の終焉など、世の中に見られるいくつかのトレンドが各社の経営にどのような影響をもたらすのか、その影響を見据えて各社はどう経営戦略を変革(トランスフォーメーション)するのか。新連載「経営トランスフォーメーション」では、経営の変革に挑む経営トランスフォーマー達へのインタビューを通してインフラ事業の羅針盤を示す。 

月刊下水道とのコラボ連載です(2023年6月号掲載)


【連載】経営層シリーズインタビュー<10人目>フジ地中情報  深澤貴代表取締役  

フジ地中情報株式会社
代表取締役 深澤貴
手に持っているのが管路スクリーニング調査用ドローン「アルキメデス」

2022年に創立50周年を迎えたフジ地中情報は、上水道の管網調査や維持管理でトップランナーとしての存在感を示し続けてきた。自社の経験と人材、そしてヴェオリアグループに名を連ねてからはヴェオリアグループの技術とノウハウも最大限に生かすため、昨年から下水道分野に進出した。一般的に、下水道管路では直径800mm以上の場合に人が入って調査することがあり、人身事故も起きている。「下水道分野に進出するからには従業員の安全を確実に担保したい」。深澤貴代表取締役の熱い思いが、管路調査のビジネスモデルそのものをトランスフォーメーションしつつある 

肝は「今までにない」 

日本国内には2021年度末時点で約49万kmもの下水道管路が張り巡らされている。そのうち標準的な耐用年数である50年を経過した管路が全体の6%、管路延長にして3万kmほど。他のインフラと同様、下水道管路も老朽化の危機が叫ばれている。その割に少ないと感じる数字かもしれないが、10年後にはその3倍に一気に増加すると試算されており、今のうちから打てる対策は打っていく必要がある。 

下水道管路の老朽化や劣化がもたらす事象には、例えば破損個所から地下水が流入して処理水量(=処理コスト)が増えたり、根が管内にはびこって汚水の流れを止めてしまったり、破損個所から周辺の土砂が入り込んで地中に空洞が形成されたりすることがあり、最悪の場合は道路が陥没することもある。最悪の事態を回避するために、こうした事象の有無を把握するのが管内調査である。 

図1 管路調査手法の4象限分析(二重線で囲った3つがスクリーニング調査)

管内調査には大きく分けて2つある。1つは「詳細調査」と呼ばれるもので、高精度のテレビカメラで撮影した画像や映像、管路形状や傾斜などのデータを基に破損・劣化箇所をその名の通り詳細に調べ、適切な修繕・改築計画に活かす。ただし、時間とコストがかかるため、すべての管路を詳細に調査することは現実的ではない。 

そこで、詳細調査すべき箇所を絞り込むために行われるのが、スクリーニング調査(簡易調査)と呼ばれる点検手法である。スクリーニング調査にも大きく2つの種類があり、1つは管路内面の画像を連続撮影する簡易カメラ調査、もう1つはマンホールから管内を撮影する管口カメラ調査である。 

詳細調査のテレビカメラ、スクリーニング調査の簡易カメラと管口カメラ。これら3種類の調査技術を、深澤代表取締役の話を基に精度とコストの2軸で4象限化したものが図1である。これが管路調査ビジネスの現状を示しているとも言える。 

スクリーニング調査用の機器のうち、簡易カメラは精度が高いがコストも高い。管口カメラは精度もコストも低い。この2つのどちらでもない領域に登場したのが同社が新開発したスクリーニング調査用ドローン「アルキメデス」だ。 

「低スペック」というありえない発想 

 図1を見てお分かりいただけるように、「アルキメデス」はテレビカメラや簡易カメラと比べると精度が低く、いわば「低スペック」の領域に該当する。果たして管路調査において低スペックを狙うのはアリなのか。 

「それでいいんです」 

そう深澤代表取締役は断言する。 

スクリーニング調査を含め管路調査に用いられるカメラは技術の進歩に伴って高解像度化し、静止画のみならず動画や4Kの利用も進んでいる。筆者はその方が劣化を見逃さないから良いと考えていたのだが、「アルキメデス」に搭載されているカメラは静止画撮影のみで、解像度はスマホより低い500万画素しかない。ちなみにiPhone14は1,200万画素で、その半分以下だから確かに「低スペック」なのだ。 

そのカメラで50㎝くらいに1回ずつ管内の静止画を撮影し、それらをつなぎ合わせて1本の管内画像にして管路状況を確認する。いわずもがな動画なら連続画像であるから、解像度のみならず、画像の情報量も少ない。やはり、どう考えても疑問が残る。本当にこれできちんとしたスクリーニング調査ができるのだろうか。 

「それでいいんです」 

またまた深澤代表取締役は断言する。 

「必要なら後から詳細調査を行いますから、スクリーニング調査が高解像度である必要はありません。また動画を撮影しても、破損しているか怪しい箇所は動画を一旦停止して確認します。それって静止画ですよね。つまり管内を網羅的に撮影できているのであれば、静止画でいいんです。それにデータ容量が大きくなればなるほど、データを解析するための時間とコストも必要ですし、データの保存も大変になります」 

スクリーニング調査といいながら、簡易カメラ調査は高精度すぎて、性能も価格も詳細なテレビカメラ調査に近づいているのが現状のようだ。一方の管口カメラ調査は安価だがマンホールからしか撮影できないため、管路全体を把握できない。アルキメデスのウリは、低スペックと言いながらも必要十分なスペックを備えているということだ。  

調査目的はクラック発見ではなく「管路の健康診断」 

 深澤代表取締役が「低スペックでいい」と言い切るのは、それでスクリーニング調査の目的を果たせると自信を持っているからである。 

では、スクリーニング調査の目的とは何か。かつての筆者なら、劣化を見つけることと答えただろう。しかし、その答えは深澤代表取締役に一蹴された。 

「人間の健康診断に置き換えると分かりやすいと思います。まずは簡易的な検査をして、悪いところが見つかっても、すべて精密検査したり手術などの処置をするのではなく、わずかな異常であれば経過観察という選択肢がありますよね。 

スクリーニング調査は、管路が健康かどうか、その確認が目的です。軽微なクラックが入っていても、地下水位が低く地山がしっかりしていれば道路陥没が起こる危険性は低く、まだまだ健康な管路であると判断できます。軽微なクラックをすべて見つけるには高解像度で高性能のカメラが必要ですが、健康かどうかの確認にはそこまでの性能を必要としないのです」 

下水道管路のスクリーニング調査ではこれまで、悪いところには精密検査や処置が施されてきたが、同社はそこに「経過観察」という新たな選択肢を加えた。 

無為なほったらかしと、科学的根拠に基づいた健康診断の結果としての経過観察とはまったく意味が異なる。下水道管路を管理するのは自治体だ。財政がひっ迫する自治体にとって、見つかったクラックや劣化箇所すべてに対処することはコスト的に難しく、「経過観察」というコスト抑制できる新たな選択肢は好意的に受け入れられている。国内では半年前から営業を開始したばかりだが、実証を含めすでに17自治体で調査を実施し、5自治体から6契約を取り付けた。 

 誰でも安全に、高効率な調査が可能 

 アルキメデスは、スクリューのついた前後2本ずつの筒を、スクリューが反対方向に回転するように接続した形状をしており(写真1)、管路内壁をスクリューで押しながら前後方に進む。自律自走できるため、人の操作が不要なことが従来の調査手法と大きく異なる。 

写真1 管路​スクリーニング​調査​ ​​用ドローン​「アルキメデス」。アルキメデスの原理を応用したことと、「歩きながら目で見るんです」の2つの意味から名付けられた

作業員がスイッチオンして地上からマンホール内に設置すれば、アルキメデスは勝手に画像を撮影しながら進み、ゴールポイントの合図となるマグネット式スイッチを置いておいた別のマンホールに到達したら自動停止し、作業員がそれを回収する。作業員がやることはスイッチオンとマンホールへの出し入れのみ。管路内に作業員が入る必要がない。ここが深澤代表取締役のこだわったポイントだ。 

「下水道分野への参入ハードルは決して低くはありませんでした。その1つが管路内に入るという危険が伴う作業が必要だったことです。経営者として最も大切な従業員の安全衛生を確保できるのか。そう思案していた時に、ヴェオリアのフランス本社が開発し     たこの技術を知り、これならやれると直感しました」 

性別を問わず誰にでもできる点も評価のポイントとなった。ヴェオリア・ジャパン グループのダイバーシティ推進委員会のリーダーも務める深澤代表取締役らしい視点である。 

また、2人組で複数台同時調査ができ、1日の調査延長は最低でも約1,600m。従来の詳細調査では5~6人で約300mとのことなので、1人あたりの生産性は16倍近くにも向上できるという。適用口径は200mmと250mmで、それら中小口径管路を多く採用する中小自治体が多いことも日本というフィールドにはあっている。 

管内に根が侵入していたり(写真2)、管路が大きく破損して段差が生じたりして前進できなくなった場合、アルキメデスは逆走して元のマンホールに戻ってくる。前進も後退もできなくなることを心配する自治体もあるそうだが「今までそのような事例はありません。仮にあったとしたらラッキーです。そこに大きな異常があると健康診断で分かったということですから。場合によっては異常を発見次第、即座に処置を実施することで、結果として詳細調査を省くこともでき、さらにコストが削減できます。そう説明すると理解していただけます」 

写真2 「アルキメデス」が撮影した管内画像。低スペックと言いながらも木根が侵入していることが一目瞭然である(写真提供:フジ地中情報)

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従業員の安全衛生を確保したい。その思いから導入されたアルキメデスだが、それだけにとどまらず、管路調査の操作員を最小限にし、管路調査の目的を劣化の発見から「管路の健康診断」に変革し、さらに管路調査を誰でも行えるものとし、場合によっては詳細調査も不要という。そこからは管路調査の産業構造の変革まで成し遂げる息吹を感じる。