水から考える「骨太の方針2018」

上下水道業界に迫られる働き方改革、ESG投資の促進も

 「骨太の方針2018」が6月15日に閣議決定された。上下水道インフラと水循環に関連する事項を、コメントを交えながら抜粋する。

上下水道インフラ

<働き方改革の推進>

・同一労働同一賃金の円滑な導入
 ✓民間委託するとコストメリットが出ると言われる背景が、官と民の賃金格差であるとの声があるが、それは時代の流れに反する。同一労働であれば同一賃金であるのが当然だ。

<新たな外国人材の受け入れ>

・中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築
 ✓上下水道業界には株式を上場するような大企業は少なく、大半が中小・小規模事業者だ。外国人材の受け入れを本気で考える時期にある。

<重要課題への取り組み>

(規制改革の推進)
・地域限定型サンドボックスの活用
✓自動車の自動運転やドローンの活用が主な対象とされているが、上下水道でも更なる民間活力の活用に向け、規制緩和の余地がどこにあるかの検証は必要だ。

(経済連携の推進)
・2020年のインフラシステム海外受注約30兆円という目標を達成するため、官民一体となった競争力強化、質の高いインフラの推進による国際貢献、我が国の技術・知見を活かしたインフラ投資の拡大、幅広いインフラ分野への取組等の施策を推進。また、質の高いインフラの国際スタンダード化を推進

(観光立国の実現)
・ダム等のインフラを生かした観光を推進
 ✓マンホールカードは観光活性化のツールとして期待できる。

・トイレの洋式化の推進

<地方創生の推進>

(中堅・中小企業・小規模事業者への支援)
・若者・女性・高齢者などの潜在的労働力の活用を促進
 ✓上下水道関係の企業トップにはまだまだ女性が少ない。さきごろヴェオリア・ジャパンの社長に野田由美子氏が着任したが、かなりレアなケースだ。改善の余地は大きい。

(まちづくりとまちの活性化)
・一定の人口を有する域圏(連携中枢都市圏等)を形成し、近隣市町村の連携を促進
 ✓まちづくりの広域化にけん引される形で、上下水道の広域化も進む可能性がある。

<安全で安心な暮らしの実現>

(資源・エネルギー、環境対策)
・「水素基本戦略」に基づく水素需要の拡大・供給体制の構築
 ✓下水汚泥からの水素製造に期待がかかる。

・循環共生型社会を構築するため、汚水処理事業のリノベーション、廃棄物の有効利用等による資源生産性の向上、地域特性を活かした地域循環共生圏の創造、健全な水循環の維持・回復、廃棄物処理・浄化槽の国際展開などを推進

(防災・減災と国土強靭化の推進)
・災害時に防災拠点や避難所となる公共施設について、耐震化やトイレ環境の改善、機能継続を確保

・新技術を活用した河川管理の高度化及びそれらによる避難の迅速化

<主要分野ごとの計画の基本方針と重要課題>

(社会資本整備等)
・ストック効果を最大限発揮するための予算の重点化、効率を追求した事業実施等を通じて歳出の効率化を進めるとともに、地域生活に不可欠なインフラを維持し、質の高いストックを継承

・公的資産や民間資金の有効活用など新たな投資財源を確保

・インフラ維持管理に当たって早期発見・予防保全を徹底

・インフラ老朽化に備え、予防保全に基づくメンテナンスサイクルを確立・徹底し、ライフサイクルコストを低減するとともに、集約化・複合化等、PPP/PFI、新技術の開発・社会実装、情報基盤の整備等あらゆる面から戦略的な取組を推進

・インフラ維持管理業務の効率化に向けた取組方針を明らかにし、既存の計画に反映

・各府省等と連携し、社会資本情報プラットフォームを充実させるとともに、既存インフラの有効活用やソフト対策を推進

・防災・減災等の分野で重点的に取り組むプロジェクトを明確化

・既存インフラの有効活用やソフト対策によりストック効果を最大化

・地方公共団体等がPPP/PFIに取り組みやすい方策(改正PFI法)を講ずる。特に、上下水道においては、効率的な整備・管理及び経営の持続可能性を確保するため、各地方自治体の経営状況の地域差を「見える化」し、広域化や共同化、コンセッションをはじめとする多様なPPP/PFIの導入、ICT活用等を重点的に推進

・人口20万人以上の地方公共団体における実効ある優先的検討の運用をはじめとするPPP/PFIの実施支援に加え、人口20万人未満の地方公共団体が容易に取り組めるよう、年内に改革工程を具体化

・立地適正化計画及び地域公共交通網形成計画の作成促進や策定された計画の実現を通じ、まちづくりと公共交通体系の見直しを一体的に推進
・コンパクト・プラス・ネットワークの考え方等に基づき公共施設の統廃合を推進
 ✓交通体系のみならず、まちの姿が変われば上下水道インフラの姿も変わる。まちづくりの施策と足並みをそろえ、浄水場や下水処理場の統廃合、管網の縮小など、うまくインフラをたたんでいく方策が求められる。

・長寿命化等による効率化の効果も含め、できる限り早期に、インフラ所管省は、中長期的なインフラ維持管理・更新費見通しを公表

・2021年度までに「公共施設等総合管理計画」を見直し・充実

(地方行財政改革・分野横断的な取り組み等)
・上下水道をはじめとするインフラ維持更新費の中長期見通し等も踏まえ、地方単独事業を含め、ライフラインを維持するインフラ等に係る経費や制度的な課題について、関係府省が連携し、今後の動向を検証し、必要な対応策を検討

・公営企業の広域化、連携、再編・統合など経営の抜本改革を加速し、更新費用や料金、繰出基準外の繰出金を含めた他会計からの繰入状況等の収入・支出や、管理者の情報の「見える化」や、繰出基準の精査・見直し、事業廃止、民営化、広域化等及び外部の知見の活用といった抜本的な改革等を推進

・下水道・簡易水道については、新たなロードマップを明確化し、人口3万人未満の団体における公営企業会計の適用を一層促進

・水道・下水道について、広域化・共同化の推進を含め、持続的経営を確保する方策等を検討し、具体的な方針を年内に策定。先行事例の歳出効率化や収支等への効果を公表するほか、多様なPPP/PFIの導入や広域化・連携を促進

<歳出改革等に向けた取組の加速・拡大>

(公共サービスの産業化)
・PPP/PFI、地方行政サービスの民間委託等の公的サービスの産業化の取組を加速・拡大

・スケールメリットの拡大による民間事業者の参入を促すため、複数自治体や公営企業間等での多様な地域間連携やアウトソーシング等の促進などの環境を整備

・民間参入や民間の業務運営に関する規制を改革

(既存資源・資本の有効活用等による歳出改革)
・コンセッション収入などを増加させる方策を検討し、これらの収入により確保した財源を、将来必要となる投資等に有効活用

水循環

<生産性革命の実現と拡大>

・企業の能動的な提案・情報開示等を促し、ESG投資を促進

<重点課題への取り組み>

・水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立。科学的・効果的な評価方法、管理方法による新たな資源管理システムを構築。資源管理から流通に至るICT活用体制の整備、持続可能な漁業・養殖業の認証。水産資源の管理徹底などのための漁業取締体制を増強。

<安全で安心な暮らしの実現>

(環境対策)
・生物多様性の保全、マイクロプラスチック等の海洋ごみ対策、化学物質対策

(暮らしの安全・安心)
・食品ロスの削減に向け、国、地方自治体、事業者、消費者などの様々な関係者が連携した国民運動の推進やICT活用等による民間企業の取組を促進