さあ、ドキドキすること、はじめよう

日水コン水インフラ財団 野村喜一理事長に聞く 水インフラ企業の社会貢献

日水コンは今年7月に「日水コン水インフラ財団」を設立されました。同社事業とは別組織として、水と社会インフラの持続と発展につながる活動への助成や支援を行います。発案者であり、初代理事長に就任された野村喜一氏(同社会長)に、財団設立の背景などについて伺いました。

(聞き手:編集長 奥田早希子)

「地域」「ひと」と結びつくために

日水コン水インフラ財団 野村喜一理事長

――まずは財団にかける思いをお聞かせください。

「気候変動やコロナ危機などさまざまな苦難に直面しているこの時期だからこそ、若者に夢を見てもらいたい。次の時代に何かを残したい。これが財団設立の起点です。

そのためには、未来を語ることが重要です。時代の先を見据えた仕組みを提供することが財団の役割であり、水インフラ企業である日水コンの責務だと考えています」

――日水コンでも様々なCSR活動に取り組まれていますが、あえてそこには組み込まず、財団設立を選ばれたのはなぜですか。

「人口が減少していく中、これからは地域こそが何かを生み出すのだということを示したいと思いました。そのため、日水コンでは『地域に根差す』をキーワードに中期経営計画を作成しているところです。

ここで考えるべきは『地域』とは何か、ということです。これまで日水コンにとっての地域とは、イコール役所との関係性でした。しかし私はそれだけではなく、そこに住まわれている人、活動しておられるNPOなどの皆様と、直接つながらなければならない、そうしなければ地域を元気にできないと思っています。これは日水コンではできません。

もちろん財団には日水コンの経営理念にも通じるESGやSDGsなどの思いは継承されています。しかし、会社とは別組織である財団だからこそ、本当の意味で地域との、そして人との結びつきを構築できると考えています」

シンクローカル、アクトグローバル

――地域を重視されるのはなぜですか。

「よく『シンクグローバル、アクトローカル』と言われます。気候変動など世界的な課題を考え、それを地域にブレークダウンして行動するという意味です。

その手法も認めますが、私がこれまで長らく企業人として勤めてきた経験からすると、その逆で『シンクローカル、アクトグローバル』ではないかと感じます。まずは地域で考えてやってみて、その手法が使えそうなら普遍化して世界中に行動を展開するのです。

世界を見てローカルに行動できる人もいるでしょうが、限定的ではないでしょうか」

――実感として納得できます。自分自身「シンクローカル」で、さらに言えば「アクトローカル」ですね。

「その通りで、普通は身近にある足元の問題から対処します。それが世界的な行動につながった好例が、最近では日本人が徹底していたマスクの着用でしょう。

地震や津波など災害時の行動やハザードマップなどの考え方も、地球規模の災害を見ていたわけではなく、地域から生まれました。

こうした事例を見聞してきて、地域をベースにする、地域に根差す、そういう思考になりました。これは今までの企業の思考とは大きく異なります。企業はやはり大きく考え、それを個別案件に落とし込みますから『シンクグローバル、アクトローカル』の考え方に近い。財団ではその逆に取り組みます」

身近な行動に普遍的なコンセプトを付与する

――財団では今後、地域の水インフラを支える研究や人材の育成、水文化の継承などの地域活動に対し助成・支援等を行われますが、その中で「シンクローカル、アクトグローバル」をどう実現されるのでしょうか。

「例えば側溝のゴミ拾いのような活動にも助成したいと思っています。その際、ゴミ拾いだけでは個別の活動で終わってしまいますので、雨水マスに葉っぱが詰まったら浸水につながる、ゴミ拾いは雨水対策の一環だ、という具合に普遍性を付与していきます。

風呂の残り湯を洗濯に使いまわすといった個別具体的な行動も、エネルギーや水使用量を削減するという普遍的な活動として再定義していきたいです。

普遍的なコンセプトがあれば、他の地域にも展開していけるでしょう」

――どのような活動が助成対象になりますか。

「財団の名称には『水』ではなくあえて『水インフラ』と付けました。昨今はモノからコトへと価値感が変容しつつありますが、やはりモノも大事だと思うからです。財団ではコトもモノも助成対象として捉えています。

小さな問題でも構いません。初年度は“ローカルすぎていいのかな”と思うような活動でもいいので、普遍的な概念と結びつく案件を採択したいと考えています。

例えば、洗濯やトイレで使う水を減らす取り組みと、災害時の地域のトイレのあり方や災害対策をセットにする。あるいは、水辺の生物調査を水循環基本法と結びつける、といった案件が想定されます。活動内容と普遍的な概念との関連づけが難しい場合は、財団も一緒に考えさせていただきます」

――「世界の水問題のために」と言われると問題が大きすぎて逆に何をやっていいのか分からなくなりますが、身近な水の問題なら自分にもできることが見えて、行動する人が増えそうです。

「グローバルな問題と地域での活動との間には“溝”がありますね。その溝を埋めていきたいです。

豪雨対策にしても、気候変動から始まらなくてもいい。近所の道路に水が溜まっているから、といったことから始めるやり方だってあっていい。気候変動に比べれば小さな事かもしれませんが、地域の雨をどうするか、というテーマなら地元の人も乗ってくれるでしょう。そうした地域に密着したモノとコト、そこから普遍性を創造できる活動を支援していきたいと思います。

そして将来的には、普遍的なコンセプトで地域と世界がつながり、人と人がつながり、それらが集積し、そこからさらに普遍性が生まれる。それこそが、財団が提供したい価値です。そこに至るまで、長く活動を継続していきたいです」

 学生との交流で気づいた「地元を見ていなかった」

公私ともにドキドキすることが大好きな野村理事長。最近の一番のドキドキは、八丈島で15㎏のカンパチを釣り上げたこと

――地域が大事だと気づかされたエピソードはありますか。

「日水コンでは高校や美術大学などとのコラボ企画に取り組んでいます。その際、学生や地元の方からいろんな思いを聞かせていただきました。今まで役所から発注される仕事を仕様書に則って仕上げてきたわけですが、肝心の地元が見えていたようで見えていなかったんだと気づかされました。

地域の浸水対策を考えると言っても、管の太さなどを決めるだけです。雨がたまりやすいから“ここ”を直してほしい、雨が降ると臭気が出るから“ここ”をなんとかしてほしい、といった地元の人の話が入っていないのです。長く仕事をやってきましたが、地元の話をくみ上げていなかったと痛感しました」

――行政の施策と地元の暮らしとの間にも“溝”があるのですね。

「現地調査をしていると、地域の方から何をやっているのかと問いかけられます。汚水管を敷設していると説明すると、何のためだと問われます。敷設することは役所も説明するのでしょうが加えて“何のためか”の説明も必要です。

自分の水がどこから来て、ウンチがどこに流れるのか。地元の人の立場に立った説明が足りず、結果的に上下水道のこれからを見直す際に地元の理解が得られません。

行政施策と地元との溝も、身近なことから埋めていけると思います。誰しも自分の困っていることを解決するためなら、行動を起こしますからね。そこに少しでもお金があれば、仲間が増やせる。そして人が集い、地域にネットワークが構築できればいいですね」

――最後に一言お願いします。

「私は趣味でもなんでも、心臓が“ドキドキ”することが大好きです。スカイダイビングやゴーカート、釣りも大物を釣り上げる時には心拍数が上がります。

財団でもドキドキするような人と活動に出会えることを楽しみにしています」


一般財団法人日水コン水インフラ財団について

 事業の目的

本財団は、地域の水インフラを支える研究、人材の育成、水文化の継承及び新しい技術、運用システム、事業開発に係る諸活動に対し助成・支援等を行うことにより、もって持続可能な地域の水インフラの実現に貢献し、地域活力の向上と豊かな水環境の創造に寄与することを目的とします。

事業の内容

本財団は、上記の目的を達成するため、次の事業を行います。

(1)地域の水インフラを支える研究、人材育成、水文化の継承などの活動への助成

(2)地域の水インフラの維持、機能向上、運用システムなどに関する新たな技術開発への助成及び資金調達支援・アドバイス

(3)地域における水と親和性の高い新規事業・総合インフラ事業に係る創業・事業化に対する資金調達支援・アドバイス

(4)地域の水インフラ維持等に有用な技術・運用システムの普及促進活動

(5)本財団の活動成果の広報、水インフラに係る各種情報の発信

(6)その他本財団の目的を達成するために必要な事業

なお、前項に掲げる事業は、本邦及び海外において行うものとします。

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています