職場を分散するサテライト方式で下水道機能を死守する!

鶴岡市上下水道部参事兼下水道課長 有地裕之さんに聞く

「#水インフラと新型コロナ」のこれまでの記事でも触れたように、下水処理場や浄水場、工事といった、いわゆる「現場」には誰かが行かなければならず、在宅勤務100%は容易ではありません。それら「現場」では、どのような感染対策が行われているのでしょうか。下水処理場での取り組みについて、山形県鶴岡市の上下水道部参事兼下水道課長の有地裕之さんに伺いました。(2020年4月30日LINEにて取材)

クラゲで有名な加茂水族館でのジャズセッション。中央奥でピアノを弾いているのが有地さん(有地さん提供)

「働く部屋」と「働く場所」を分散

――感染対策の方針をお聞かせください。

下水道は暮らしに欠かせないインフラですので、新型コロナ禍においても関連する工事は平常通り実施してきました。

下水道関連の職場は大きく分けて役所と浄化センター(下水処理場)がありますが、最も避けなければならないのは浄化センターでの維持管理業務が停止すること、つまり浄化センターの機能がストップすることです。

なんとしても浄化センターを死守する。そのことを第一に考えて対応してきました。

――具体的にどのような対応を取られてきましたか。

鶴岡市で最も規模が大きい鶴岡浄化センターでは、当初は時間差出勤を行いました。

その後は、浄化センター内での執務室の分散と、浄化センター外の施設を併用した働く場所の分散を行いました。

浄化センター内では、従来の事務室1室だけに人が集まらないように、使用していない会議室や資料室の整理を進めました。4月末からそこも執務室として使い、2つの部屋に人を分散させています。

浄化センターは大きな施設ですので、空間的な余裕があったことが幸いしました。急造した執務室は、維持管理業務を委託している民間企業の社員の方にも開放しています。

浄化センター外の施設との分散方法としては、職員6名を2班に分け、浄化センターと役所に入れ替わりで出勤するようにしました。誰か1人でも感染すればその班の全員が自宅待機せざるを得ません。2班に分けておくことで、どちらかにクラスターが発生しても、最悪でも半分の人員は助かるようにしています。

インフル用のBCPが役立った!

鶴岡浄化センター(鶴岡市提供)

――BCPにパンデミック対応は含んでいましたか?

これほどのパンデミックを想定したものではありませんが、新型インフルエンザ対策は含んでいました。

流行の段階を踏んだ方針が決まっていて、例えば市内で感染経路不明の感染者が出たら蔓延期と定義し、業務縮小、分散をする、人員の半分は確保する、などです。今回はそれを応用した形です。これがあって、本当に助かりました。

完全なる在宅ワークは難しい

――働き方改革でもあるのですが、出勤をテレワークに置き換える企業が新型コロナを機に一気に増えました。下水処理場の運転管理にも遠隔監視などICTが導入されていますが、どこまでテレワークが可能なのでしょうか。

 機材やシステムが整っていないので、浄化センターの運転管理などの業務を完全に在宅勤務にすることは難しいのが現状です。

 そもそもネットワーク環境が役所と関連施設だけで閉じているイントラネットなので、例えば家で自分のパソコンでインターネットを経由して浄化センターの装置を制御するということはできません。

 設計システムもこのイントラに入っているので、家で自分のパソコンのエクセルで計算するということも難しい。USBでデータを持ち帰ればできるかもしれませんが、漏洩リスクが高くなります。

 発注情報など極秘情報が多いので、どうしてもセキュリティーは厳しくせざるを得ません。
 下水道事業のマネジメントは公営企業として、いわば役所とは別組織が行っています。ですが事業の責任は役所にあるので「役所の1部署」という認識が大きく、ネット環境にしても役所のルールに縛られている面があります。

ここが変われば、ICTがもっと導入され、本当の意味での遠隔監視もできるようになるのかもしれません。新型コロナを受けて、変えられるところは変えていきたいと思います。

職員一人一人が基本的な感染対策をとることが重要

下水処理設備(鶴岡浄化センター。筆者撮影)

――未処理の下水中では8時間ほどで新型コロナは失活すると言われていますが、一人一人はどのような感染対策をされていますか。

処理水に新型コロナが出ることはないと聞いていますが、それでも万全を期すにこしたことはありません。とくに下水道管路やマンホールに入ることのある維持管理の現場では注意が必要です。

とはいっても、特別なことはしていません。マスクをつける、換気をするなど、基本的なことをきちんとやるだけです。

もともと新型コロナに限らず感染対策には気を配っていたので、通常通りやっていれば問題はないと考えています。基本を徹底するよう指導をしています。

4拠点のサテライト方式で第二波に備える

――新型コロナを教訓として、さらに感染対策を強化する予定などはありますか?

 先ほど働く場所を浄化センターと役所の2つに分散させたとお話しました。さらに加えて、羽黒浄化センターと朝日浄化センターの2カ所もサテライトの拠点として使えるように整備を進めています。

 これら2つはもともと無人の浄化センターで、定期的に巡回点検をしたり、鶴岡浄化センターから遠隔監視をしたりしていました。ですが、災害時に職員が寝泊まりする場合を想定し、事務室を建てていました。エアコン、シャワー、電話線などはすでに揃っています。そこに4月中旬から、光回線を引く準備を進めてきました。

 整備の途中で新型コロナが収束したとしても整備する、ということで進めました。新型コロナの第二波、第三波に備えるためです。

まもなく光回線の工事が完了しますので、これで分散拠点は4カ所となります。幸いにも緊急事態宣言は解除されましたが、いざという時にはこれら拠点に職員を分散させ、サテライト方式に移行させます。

やっぱりリアルにコミュニケーションしたい

下水処理設備(鶴岡浄化センター。筆者撮影)

――何か困っていることはありますか。

新人歓迎会ができないこと! そんなこと?って思うかも知れませんが、それが大きな意味を持っていると感じています。

4月入社の新人は、入社してすぐに在宅勤務になったので、仲良くなっていく段取りが無かった。先輩や上司と互いに顔を合わせて話したことがほとんどなく、オンラインミーティングで顔が見えるとはいえ、やっぱりコミュニケーションがとりづらい。そうすると仲間意識が薄れ、仕事の質にも影響するのではないかともどかしさを感じています。

 また、鶴岡市特有なのかもしれませんが、市内の旅館やホテルが営業を停止しているので水使用量が減っています。緊急事態宣言は解除されましたが、観光需要がどこまで回復するかは未知数であり、長引けば料金収入に影響を及ぼす可能性がありそうです。

――最後に一言お願いします。

100%うまくいく方法はありません。柔軟に対応する力が重要だと思います。

有地裕之氏 鶴岡市上下水道部参事兼下水道課長
1960年鶴岡市生まれ。1982年鶴岡市採用。下水道課、建設省土木研究所、都市計画課、浄化センター所長、廃棄物対策課長を経て2017年度より現職