人事部門だって水インフラの持続に貢献したい!

上下水道の持続と企業力(5)NJS

働き方改革の実現が重要な課題となっているが、日々の業務で精いっぱいの現場にとっては、余計な手間がかかる負担ととらえられることもある。人事と現場との意識の相違。上下水道コンサルタントのNJSもそうだ。そこを人事総務部が中心となり「ヒトとのつながり」をキーワードに乗り越えてきた。

働き方改革の推進を担う人事総務部の中塚理子さん(左)と琴尾奈緒美さん

品質向上活動から始まった業務改善活動

 NJSの働き方改革の取り組みは品質管理から始まった。それまでは多くのコンサルタント会社に見られたのと同じく、技術は師匠から弟子へ、つまり上司から部下へ徒弟制度的に時間をかけて伝承されていた。しかし、上司がプレイングマネジャーとなり、部下に直接指導する時間が減った。

また、上下水道が概成した結果、ポンプ場の機械設備のみの更新等の部分的な設計が多くなり、上下水道の全体を俯瞰するような技術を伝えづらくなっていた。発注者である自治体との協議も限定的。そうした中で全体計画に配慮した設計業務を経験することが難しくなっている。

そこで、品質を向上し、顧客満足度を高めるため、業務改善活動が始まった。3、4名のチームを作り、週に1回の顔を合わせてのミーティングを実施した。これが同社の働き方改革の原点だ。

ワークライフバランス推進活動の始動

翌年の2014年から、業務改善活動を発展させる形でワークライフバランス推進活動(WLB活動)が始まった。まずはノー残業デーを実施し、社員自らが時間内に良い製品を仕上げられるよう工夫を促した。しかし、すぐに受け入れられたわけではない。人事総務部の琴尾奈緒美さんは当時をこう振り返る。

「当時は長時間労働が常態化していて、現場は今の仕事をこなすだけで精いっぱい。早く帰れと言うなら仕事量を減らすか、ヒトを増やすしかない、というところで思考停止です。業務改善をお願いしても『やっても無理』というあきらめモードもありました」

顔を見て、自分の声で必要性を訴えた

それでもあきらめずに本社から地方の全拠点に足を運び、WLB活動の必要性を相手の顔を見て自分の声で訴えかけた。

「働き方の見直し」と位置付けたWLB活動は、社員の成長と職場環境の改善であると琴尾さんは強調する。「決められた時間の中でどう工夫して品質を向上するか。自分でやることを考え、決め、実現する。それが働くことの喜びにつながる。その経験は、自律的な技術者に成長させてくれるはずです」

5年かかったが、徐々に理解が得られていった。

NJSは今年度から、ワークライフバランス推進活動(WLB活動)をさらに進化させた。子育てサポートに力を入れる企業として「くるみん」認定を取得するなど、働き方改革は外部機関からも高く評価されている。

課題・改善策を考えることが社員のやる気に

今年度は、これまで各部署内での課題解決にとどまっていたWLB活動をさらに進化させ、全社横断の課題に取り組んでいる。各部署から推進委員を選任してもらい、全社アンケートから優先課題をいくつか抽出し、課題ごとに全社横断的なワーキンググループ(WG)を立ち上げて検討を始めた。

WLB活動の課題解決策を検討するワーキンググループ。テレビ会議システムを活用して移動をなくし、会議自体も効率化

突発的な打ち合わせが多い・長いという課題に対しては、社内会議ルールの整備をスタート。強い要望のあったオフィス内のストレス軽減に対しては、緑化や集中スペースの確保を検討するなど、できるところから改善策を実行していく。

自分たちで見出した課題、自分たちで考えた解決策が実行される。その成功体験が委員たちのやる気につながる。会社全体としても、WLB活動が受け入れられる雰囲気ができ上がってきた。

コミュニケーションの活性化が第一歩

人材不足に取り組むWGもある。これに対しては、本社が行っている新卒や中途採用の取り組み、大学との連携などを理解してもらうことから始め、現場と本社がより連携して人材確保に取り組む方向性が見えた。

実はWG設置の狙いは、そこにある。WGで取り組む課題の多くはコミュニケーション不足がその大きな要因となっている。本社と現場、社員と社員の間で意見交換を行い、問題意識を共有することが第一歩となる。

「他部署の社員と意見を交わし議論することで視野が広がる、社員に伝わるプレゼンテーション資料の作り方といった些細なことからも学べることがある」というのはWG参加者の声だ。

「コンサルタントは人との仕事です。だからこそ、電話やメールだけではできないことがある。顔を見て、人となりを分かってこそ良い仕事ができるのだと思います」(琴尾さん)。

コミュニケーションが人を育て、品質向上、業務改善につながるのだという。

良い技術者が増え、水インフラに貢献できる。人事は裏方ですが、そこにやりがいを感じています

働き方改革の推進を担う人事総務部の中塚理子さん(左)と琴尾奈緒美さん

人事制度についても今年度は大改革を実行した。複線型キャリア制度の導入や評価制度の刷新などだ。定年も70歳に延長した。この秋から、フレックスタイム制や在宅勤務制度、モバイルワークも本格運用する。

目指すのは、ライフに合わせて柔軟に働き方を選び、キャリアを積み重ねていける会社だ。そうすることで、自律的な技術者・社員の育成につなげようというのだ。

同社の取り組みは、早くも外部機関から評価されている。子育てサポート面では「くるみん」認定を受けた。また、健康経営優良法人ホワイト500にも認定された。

人事総務部の中塚理子さんは、3歳児の子育て中。子育てサポートの制度が決め手となって、同社への転職を決めた。

「この会社なら子育て中は仕事をセーブしても、いずれ本格復帰でき、さらに70歳まで長く働けると思って転職しました。自分もそうですが、社員1人1人にとってもそうであるように支援していきたい。それによって良い技術者が増え、日本の、ひいては世界の水インフラに貢献できる。人事は裏方ですが、そこにやりがいを感じています」

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています