「水道代」いくらまで追加負担できる?

電通の意識調査で見えた上下水道料金の限界

8割近くが追加負担を許容

電通がこのほど、「第1回カーボンニュートラルに関する生活者調査」を行いました。2050年に脱炭素社会を実現するために、関連ワードや施策をどれくらい理解しているか、どのような行動を起こしているかなどをアンケートしたものです。

その中で、生活に密着する支出について、カーボンニュートラルのためにどれくらいの追加費用を許容するかを調査しています。生活に密着した水インフラである「水道代」も対象の1つ。果たして水への追加費用はどれくらいでしょうか。結果を見ていきましょう。

※但し書きはありませんでしたが、上下水道を一括して請求する自治体がほとんどなので、ここでは上下水道料として進めます

質問は「毎月に許容できる追加費用」で、回答は「501円以上」「500円以内」「許容しない」の三択です。

「水道代」に対する回答結果を見ると、「500円以内」なら追加負担してもいいとの回答が45%と最多でした。「501円以上」と合わせると、78%が追加負担を許容すると回答しています。

「水道代」の追加負担に関する回答

「501円以上」の追加負担の許容割合はワーストスリー

他の支出と比較してみましょう。「501円以上」の追加負担をしてもいいと回答した割合が多い順に並べてみます。全15項目のうち、上位に入ったのは「飲食代」「旅行やレジャー」「電気代」でした。

感覚的な分析で恐縮ですが、これらへの追加負担を許容する人が多かったのは、「飲食代」についてはフードロスに関する情報に接する機会が増えたこと、「旅行やレジャー」についてはアフターコロナには多少負担が増えてでも外出したい感情が高まっていること、「電気代」についてはカーボンニュートラルを実現するために割高でも再生可能エネルギーへの転換が避けられそうにないという感覚が高まっていること、が考えられそうです。

これに対し「水道代」は下から3番目と振るいません。

少額なら負担OKの割合はトップスリー

しかし、「500円以内」なら追加負担をしてもいいと回答した割合が多い順に並べ替えてみると、なんとトップ。「501円以上」と合わせ、いくらかの追加負担を許容するとの回答率は78.1%で3位でした。“そんなにたくさんは嫌だけど、多少は負担してもいい”という人は多いようです。

必要な値上げ額と生活者の感覚が乖離

ところで、カーボンニュートラルとは異なる文脈で、上下水道料金は値上げが避けられない状況にあります。施設が老朽化し、更新投資が増大していくためです。それよりも前に、そもそも設定料金が安いという理由もあります。

上水道料金だけでも2043年までに月額1,569円の値上げが必要との調査結果EY新日本有限責任監査法人、水の安全保障戦略機構事務局のレポートを基に算出)もあります。これは上水道だけですから、下水道も含めれば最低でもその2倍の3,138円の値上げが必要であることがざっくりとですが試算できます。2020年に実際に支払われた上下水道料の月額平均は5,255「家計調査2020」(総務省))ですから、6割近い値上げが必要と言うことになります。

上水道と下水道を合わせて500円の追加負担では、残念ながら到底足りません。「501円以上」と回答した方がどれくらい高額な負担をする覚悟なのかがアンケート結果からは分かりませんが、3,000円以上の追加負担を想定した人がいるとは考えにくいでしょう。生活者の感覚と実際に必要な値上げ幅が、はなはだ乖離していると言って良いと思います。

官民連携や統廃合などで値上げ幅を少なくする取り組みは必須です。それにしても限界があります。値上げへの生活者の理解を広め深める必要があるでしょう。

国や自治体も危機感を強めており、その方策の1つとして広報活動に期待しています。上下水道事業の役割や社会的意義を啓もうするチラシやパンフレットが多数散見されるようになっていますが、しかし、残念ながらおうおうにして「おカネ」の話題が欠けています。

とくに下水道事業の場合、雨水対策や公共用水域の水質保全という社会便益と、生活排水の排除という個人便益をもたらす2面性があります。前者は税金で、後者は利用者が支払うべきとされていますが(これを「雨水公費、汚水私費」と言います)、公費と私費の線引きは、解釈においても実態においてもあいまいです。

下水道事業の何にどれくらい、どのような税金が投入されているのか。国や自治体には、まずその情報収集と公開を進めていただきたいと思います。


おまけ

ところで、「500円」という数字に着目してみると、その金額が多いのか少ないのかの「感覚」は、いま実際に負担している額によるところが大きいと思われます。毎月1,000円支払っているものに、追加で500円はかなり負担感がありますし、逆に10,000円支払っていれば追加で500円くらいは感覚的に許容しやすいでしょう。

つまり、実際に支払っている月額に対する500円の比率(X軸)が低いほど、「501円以上」の追加負担を容認できる人の割合(Y軸)が多いのではないかということです。そこでこれら2つの変数で散布図を作成してみると、「旅行やレジャーの費用」を除いてこの仮定が当てはまることが分かります。

「家計調査2020」(総務省)参照。「家計調査」での項目名は「食料」「宿泊料、パック旅行費」「電気代」「被服及び履物」「家賃地代」「ガソリン」「ガス代」「保健医療」「通信費(郵便・固定電話通信料・携帯電話通信料・運送・携帯電話機、他の通信機器)」「上下水道料」「医療保険料」「交通」

同調査にないローン関係の2項目は対象外としたので、全13項目のうち、実際に支払っている月額に対する500円の割合が0.6%と最も低く、「501円以上」の追加負担を許容する比率が48.2%ともっとも多かったのが「飲食代」でした。500円というとコンビニ弁当1つ分くらいですから、「501円以上」の追加負担を感覚的に許容しやすいのかもしれません。

「水道代」は、500円/月額が9.5%と上から6番目に多く、「501円」以上の追加負担許容率は下から3番目でした。