社会人が「第3世代の上下水道」テーマに学生に講義

中央大学理工学部、水ビジネスの魅力と可能性を伝える

中央大学理工学部の山村寛教授が担当する講義「水環境工学」では、当サイトを運営する一般社団法人Water-nとの協働講義を実施している。最先端で活躍する企業の社員が入れ代わり立ち代わり講師を務めており、2022年度10回目となった6月20日は「第3世代の上下水道」をテーマに、フソウNJS日水コンヴェオリア・ジェネッツ共和化工の社員が講師を務めた。

フソウ ソリューションデザイン事業部の相谷明宏さんからは、BIM/CIMなどフォトグラメトリー技術が紹介された。点群データを使って下水処理場など空間すべてを3Dで再現でき、老朽化した設備の入れ替え作業を効率化したり、現場の作業員に離れた場所から熟練技術者が指示を出すこともできるようになる。

NJS 開発本部の稲垣裕亮さんからは、パイプ内部を点検調査するドローン技術が紹介された。下水道管内に飛ばしたり、水道管や雨水管の水上や水中を走行させたりしてデータを収集する。点群データも組み合わせて3D化するとともに、劣化状況を定性的に評価する。これまで人が点検していた大口径の管路の調査を代替し、作業員の安全確保にもつながる。

日水コン DXソリューション部の富永昌伸さんからは、AIを活用した雨水のリアルタイムハザードマップシステムが紹介された。下水道計画を上回る降雨量をもたらす豪雨が頻発し、ハード対策だけでは限界があると言われる中、ソフト対策として住民がいち早く避難できる情報の提供を目指している。

ヴェオリア 官需事業開発本部の伊藤万葉さんからは下水の情報資源としての活用策として、下水中のウイルス情報を感染症対策に活用する下水サーベイランスという取り組みが紹介された。ひとりひとりがPCR検査を実施するよりも、安価で広範囲に新規陽性者数の増減傾向を確認できる。

また、DXを活用したオペレーションについても紹介された。下水処理場や浄水場内にある中央監視室にいなくても、どこからでもシステムにアクセスして管理することで、オペレーションコストの低減を目指している。

ここまでの共通項は、見ないものの見える化と言える。

最後に共和化工 開発事業本部の奥山菜々美さんからは、下水汚泥由来肥料を活用した資源循環型農業の取り組みが紹介された。汚泥肥料を製造するだけではなく、サツマイモやキャベツなど農作物の栽培、それらから日本酒など加工品の製造・販売も行っており、都内にはそれらを食すことができる小料理屋「和饗」も運営している。

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下水道事業は自治体を販売先とするBtoGだが、共和化工の事業は生活者を販売先とするBtoCだ。下水道インフラはほとんどが地下に埋まっているため意識されにくく、老朽化対策や更新の必要性が理解されずに必要な対策が後回しにされる懸念がある。そうした中、見える化や、生活者との直接的な接点を持つことができるBtoC事業が普及していけば、下水道インフラの理解促進につながることが期待できる。

講義を担当する山村教授は「水インフラではもうやることがないと思っている学生が増えていますが、第3世代の下水道の可能性と魅力を知ったことで、水インフラという仕事に夢を持ってくれることを期待しています」と話していた。

※「第3世代の下水道」とは:ドローンやDXを活用した最先端のマネジメントや、汚泥肥料や下水中の疫学情報など下水道資源の活用など“価値創造”という新たな役割を担う下水道事業のこと。これに対し、第1世代の役割は汚水・雨水の排除、第2世代は水環境保全の時代を指す。あくまでも本講義での定義である。