「水が使える当たり前の暮らし」を守るために

【連載】能登半島地震から考える水インフラ像④|協働

これから人口減少社会を迎える日本において、老朽化した上下水道インフラのすべてを、そのままの形で更新してしまうと、将来世代は今より少ない人数で今と同じ規模の設備を維持しなければならなくなる。それは将来世代の大きな負担となるため、避けるべきだ。能登地方も例外ではない。上下水道インフラをどう復興するか。そこから日本の上下水道インフラの未来像が示唆される。


すべてを元通りにする必要はあるのか? 

 国立社会保障・人口問題研究所によると、石川県の人口は、2050年には2020年の8割に減少すると推測されている。震災で被害が大きかった珠洲市と能登町では、4割未満と落ち込みが大きい。 

上下水道は、管路でつなぐネットワーク型のインフラである。仮に100kmの管路があったとすると、ネットワーク内に住む人が100人いれば一人が維持する管路は1kmですむが、40人になればその量は2.5倍になる。 

この単純計算で分かるように、ネットワーク内に住む人が減っていく地域では、上下水道インフラは持ち重りがする。能登地方がまさにそれだ。被災した上下水道インフラのすべてを、そのまま元通りにしまっては、将来世代の負担を増やすことになる。浄化槽のような小規模分散型のインフラも含めて考えるべきだ。 

国土交通省の上下水道地震対策検討委員を務める、東京大学の加藤裕之特任准教授もこう指摘する。 

「人口が減少している地域では、浄化槽が適している場合もあります」 

ただし、地域の実情に合ったインフラを選択していくには、復興のための費用を国が補助するために行う災害査定のあり方にも見直しが必要と指摘する。 

「災害査定では、元通りのサイズ、スペックに戻すことを基本としています。ですが、現状通りに戻すことが本当に必要なのか。そこから考えていく必要があります」 

上下水道を起点に住民協働のまちづくりを 

 筆者は2024年4月に被災現場を見て回った。能登半島に水道水を送る幹線管路はすでに復旧していたが、避難所の蛇口に水を汲みに来ている人の姿を見かけた(写真)。仮設トイレもあちこちに設置されていた。 

避難所の脇にあった水くみ場(奥田撮影)

自治体による復旧は進んでいるのに、なぜ、そのような状況が続いていたのか。それは、自治体が復旧した管路と家屋を結ぶ管路が、被災していたからだ。その管路は住民の資産だから、住民がみずから対応しなければならず、修理が遅れていたのだ。 

このことから分かるように、上下水道インフラは、住民が動かない限り、行政だけでは完全に復旧することができない。つまり、住民との協働が絶対条件になる。ここが、行政だけでも復旧できる、橋や道路など他のインフラと大きく異なる点だ。 

能登半島をどのように復興するのか。どのような未来を描くのか。すべてのエリアを元通りに復元するのではなく、地域を絞って集中投資し、新しいまちを創造してはどうかという意見もある。そこには当然ながら住民の声が反映されなければならない。 

だとすれば、住民との協働ありきの上下水道の復興が、住民とともにまちの未来を描くスタート地点になれるはずだ。 

言い換えれば、人口減少時代を迎える日本の上下水道の新たなあり方を考えることが、住民とともにまちの未来、ひいては日本の未来を描くスタート地点にもなれるということだ。上下水道関係者が、その基盤を築き上げてくれることに期待する。(おわり) 

「環境新聞」に代表理事の奥田が寄稿した記事です