復旧事業は官が主導し、民がサポートするのが基本だ。しかし、能登半島地震の現場には、飲み水やトイレに困窮する人を一秒でも早く助けたいという思いを抱き、行政からの指示や依頼を待たずに動き出す民の姿があった。民の主体的な行動は官民連携をより強固にし、復旧を後押しする原動力となるはずだ。
一秒でも早く給水車を被災地へ
発災の翌日、被災地には早くもヴェオリア・ジェネッツの社員が給水車とともに駆けつけていた。動き出したのは発災当日だ。行政の要請を受けてから準備しては遅すぎると考え、その前に動き出した。
同社が所属するヴェオリア・ジャパングループは、2016年の熊本地震などでも給水車や社員を派遣し、被災地を支援した経験がある。社員一人一人が、組織として何をすればいいのか自ら考え、行動に移すことができる態勢があった。しかし、それを実行に移せた真の原動力は、仕事に対する社員の責任感と誇りにほかならない。
「水道事業を通して、地域社会に貢献するのが私たちの仕事です」(同社社員)
マンホール蓋の開け方を公開
マンホール蓋のメーカーである日之出水道機器も、主体的な取り組みを実施した。
最初に着手したのは、マンホール蓋の開け方を自社ホームページに公開することだ。「関係者ならやり方を知っているのでは?」と思う人も多いだろうが、実はそうではない。
蓋の基本形状は日本下水道協会の規格で決まっているが、開け閉めする錠構造や道具は多種多様。非被災自治体から支援に来たチームが開け方が分からなかったり、バールがなかったりして開けられず、管路の調査ができないことが過去の災害でもたびたび起こった。
様々な蓋を作ってきた同社だから分かる様々な「開け方」は、現地に必須の情報だった。そのほか、自主作成したマニュアルと4種類のバールを被災地に持ち込み、開閉操作の説明会も実施。多くの現場の助けになったことだろう。
デジタル技術で遠隔地でも現状把握
スピーディーな復旧に欠かせない「情報」の収集においても、民が一翼を担った。
最新のデジタル技術で臨んだのは、上下水道コンサルタントのNJSだ。被災した下水処理場の3D映像やスマホアプリで作成した点群データをもとに、被害状況や位置などの的確かつ俯瞰的な把握に貢献した。いつでもどこからでも確認できるため、今回のように道路が寸断されて容易に被災地に行けない状況下では“マストアイテム”だったと言える。
これから人手が不足する上下水道事業においても、遠隔地にいながら「現場にいるかのように」現状を把握できるデジタル技術は“マストアイテム”になるだろう。
ただし、デジタル化はまだまだ普及の途上。能登半島地震では、アナログ資料が活きた事例もあった。
水道管の漏水調査を手掛けるフジ地中情報は、通常業務では管網をマッピングしたデジタル情報を使っているが、それをわざわざ紙にプリントアウトして被災状況のヒアリングに出向いた。これが地元の自治体に非常に感謝されたそうだ。
被災地では停電していたり、パソコンやタブレットが破損して使えないことも想定される。デジタルに頼り切る事の危険性と、アナログとうまく組み合わせることの重要性をデジタル社会に突き付ける事例と言える。
復旧事業そのものは官が主導するが、民の主体性と技術力がそれを強力に後押しする。官民連携なしに復旧は進まない。
「環境新聞」に代表理事の奥田が寄稿した記事です