まち全体にバリューを振りまける上下水道政策を

第1回上下水道政策の基本的なあり方検討会を傍聴して

OPINION

2024年4月に水道行政が厚生労働省から国土交通省に移管されて「上下水道審議官グループ」が発足し、水道行政と下水道行政が1つになった。すぐにシナジー効果が生まれるわけではないが、統合を単なる「足し算」と考えるのではなく、「新しい組織の誕生」と考えれば、これまでとは全く異なる視点で政策を創造できる好機である。

2024年11月に設置された「上下水道政策の基本的なあり方検討会」はその第一歩と言える。しかし、同月29日に開催された第1回会議では、国交省が準備した資料からは新しいものを生み出そうというワクワク感が感じられなかった。一方、委員からは「いいね!」ボタンを押したくなる意見が多く挙げられた。どこが残念で、どこに「いいね!」と感じたのかを解説する。

本検討会の審議事項は「2050年の社会経済情勢を見据え、強靭で持続的、また、多様な社会的要請に応える上水道システムへ進化するための基本的な方向性(基本方針)はいかにあるべきか」である。ここで2つの難点を感じた。

まず、最近では経営戦略などを考える時の常とう手段であるバックキャスト型を取り入れたのは良い姿勢だが、資料に提示された2050年の社会の姿がフォアキャスト型に発想されている点だ。

2050年の社会の姿として下記の3つが挙げられている。

  • 安心で持続的な発展、成長が図られる社会
  • 強靭で安全、災害やリスクに強い社会
  • 水による恩恵の最大化、リスクの最小化が図られた社会

これらはいずれも今の上下水道から想像できる社会の姿である。言い換えれば、今の下水道でできることを考えている。つまり、フォアキャストだ。これでは、思いもしなかった新しい姿、ミラクルな発想は生まれない。描けるのは今の延長線上にある未来の上下水道にすぎない

もう1つの難点は、「2050年の社会」という概念が大きすぎて、上下水道を利用する住民から乖離してしまっていると感じる。「2050年のまち」と考える方が、そこに住む住民の姿がリアルに立ち上ってくる。立ち上ってくれば自然と、住民のために2050年の上下水道がどのような価値を提供できるだろうか、と思考回路が切り替わるのではないだろうか。

本検討会に期待するのはまさにそこで、上下水道のための政策ではなく、まちや住民のための上下水道の政策が議論されることを切望する。これは何も、まちの変化に合わせて上下水道を変化させよと言っているのではない。その逆で、まちや住民目線に立つことで、まちづくりを上下水道が主導するようになると考えている。

例えば人口減少下でも住み続けられるまちを実現するには、まちの野放図なスプロールを抑制すべきだし、災害で被災したエリアをすべて元通りに戻さないという選択肢も出てくる。その時、スプロールしたエリアには上下水道は整備しないという抑止策をかけたり、財政的に上下水道管をどこまで伸ばせるかという観点から復興するエリアを議論することもできる。そうした真の意味でまちや住民の未来を考えた政策に取り組める素地と力が、上下水道にはあるはずだ。

この点は東京都下水道局建設部長の石田紀彦さんも「上下水道からまちを再建するという視点が必要」と指摘していた。

明治大学政治経済学部教授の野澤千絵さんも「上下水道政策で、土地利用をコントロールすることを検討してほしい」を要望されていた。

繰り返しになるが、上下水道のためだけの上下水道政策ではく、まち全体に上下水道のバリューをふりまけるような政策のあり方を議論してほしい

本気でバックキャスト的に、かつ、まち目線、住民目線で2050年の姿を想定するなら、例えば「ウォーカブルで健康になれるまち」であったり、「自然災害が起きても住み続けられるまち」といった視点が加わっても良いと思うが、読者の皆さんはどうだろうか。

もう1つ言及しておきたいのが、議論する論点としてあげられた「持続的に(上下水道。筆者加筆)サービスを提供するため、利用者との関係性はいかにあるべきか」である。

上下水道は設備というモノを整備してきた事業であるが、目的はモノの整備ではなく、モノを使って生活排水を処理したり、飲み水を作ったりするコトだ。「コト」視点の重要性を従前から指摘してきた筆者としては、ようやく本格的にサービス産業の視点が入ってきたとうれしくなったのだが、まだまだ上下水道のサービスに限定されていると感じた。

この点については日本下水道協会理事長の岡久宏史さんが「汚水処理行政をどう統一し再構築するか。下水道の集合処理と、浄化槽の分散処理をどう選択していくかの計画論などについても議論してほしい」と指摘していた。

まさにその通りで「いいね!」である。筆者が常々指摘してきたのは、下水道サービスではなく、生活排水処理サービスを維持することの重要性である。浄化槽も含めた「生活排水処理サービスの持続」も議論されることに期待する

そして、フォアキャストで、まち・住民・サービスの未来の真にためになる未来を描くのであれば、今ある上下水道システム以外の選択肢も見えてくる。水が循環する住宅や建築、空気から水を作る技術はすでに世の中に存在する。それらは「上下水道法の枠にはまらない」という理由で毛嫌いする声もあるが、逆に法改正してでも新技術、新発想を取り入れていかなければ、人口減少下で水インフラを維持することはできないだろう。それは決して縮小の選択ではなく、イノベイティブで夢のある選択である。今ある上下水道システムを守り維持することにとらわれる必要はない

(奥田早希子)
2024年11月30日加筆