QOLの追求が新たな価値を生む

【連載】能登半島地震から考える水インフラ像②|サービス化

飲み水があり、トイレや風呂が使え、生活排水が処理される…。国土交通省は住民目線に立つことで、「モノ」よりも、それら「サービス」の早期復旧を優先させた。「サービス」を基軸に考えると、上下水道の地平は広がり、新たなサービス提供手法も見えてくる。その萌芽を能登半島地震の復旧に見ることができる。


笑顔をもたらした風呂サービス 

水インフラが被災してトイレが使用できず、排せつや水を飲むことを我慢して体調を崩す人が増えたり、仮設トイレが汚物まみれになって不衛生になったり、こうした問題が災害のたびに繰り返され、報道されてきた。 

能登半島地震も例外ではない。しかし、これまでと違っていたのは、解決策も合わせてクローズアップされたことだ。 

それに一役買ったのは、お笑いコンビのサンドウィッチマンだ。彼らが東日本大震災後に気仙沼市に寄贈したトイレトレーラーが発災2週間後に輪島市に到着したことが大きく報道され、彼ら自身もトイレの重要性を改めて提言した。 

橋梁大手の長大もバイオトイレを無償提供している。 

さらに今回は「風呂」にも光が当てられたと感じている。そのきっかけとなったのが、東大発スタートアップのWOTAだ。独自開発した小規模分散型水循環システム「WOTA BOX」で仮設シャワーを提供し、こちらも大きく報道された。

WOTAのシャワーを使える避難所。手前に写っているのは同社の水循環式の手洗いスタンド(筆者撮影)

テレビ画面には、シャワーを浴びてすっきりとした被災者の笑顔が映し出されていた。トイレが健康と衛生をもたらすとすれば、風呂とシャワーは笑顔をもたらす。被災者のQOLを維持することの重要性を思い知らされた。  

「下水道」である必要はない 

上下水道が管路で繋がるネットワーク型であるのに対し、WOTAの設備やトイレトレーラーなどは管路に繋がっていないオフグリッド型である。両者は機器やシステムとしてはまったく異なる。トレードオフの関係にあると考える人も少なくないだろう。 

しかし、水が使えて、汚水を排除あるいは処理するという、被災者に提供しているサービスに相違はない。前回も言及したが、ここでもまた、重視すべきは「モノ」ではなく「サービス」であるということを世に突き付けている。 

この「サービス」視点が、長きにわたってネットワーク型の上下水道という「モノ」を整備してきた業界各社をも変貌させつつある。 

動きが早かったのは水ingだ。以前に購入していたWOTA BOXをWOTAに協力する形で石川県立田鶴浜高校に設置し、その後の運営もサポートしてきた。 

このように、ネットワーク型へのこだわりを捨て、ネットワークが被災しても使えるトイレサービスや風呂サービスを提供するという視点、すなわちQOLを維持するという視点は、これからの水インフラのあり方を考える上で必須の視座となる。しかし、この発想を持つ企業が、下水道業界においてはまだ少ないのは残念な限り。新たな視点で新たな市場を切り拓いてほしい。 

「環境新聞」に代表理事の奥田が寄稿した記事です