ESGで「パブリック化」する企業

「いい会社」が社会課題を解決する、これもPPPだ

SGDsとESG

ESG投資という言葉を新聞紙面で目にする機会が増えてきました。

ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。投資するために企業の価値を測る材料として、これまではキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が主に使われてきました。それに加え、非財務情報であるESG要素を考慮する投資を「ESG投資」といいます。ESGに関する要素はさまざまですが、例えば「E」は地球温暖化対策、「S」は女性従業員の活躍、「G」は取締役の構成などが挙げられます。年金積立金管理運用独立行政法人サイトより)

すごーくざっくり言うと、なりふり構わず目先の利益だけを上げている会社よりも、長期的に見て社会や環境に良いインパクトを与える会社こそが持続可能性も高い「いい会社」であり、もっと「いい会社」に投資しようという動きです。国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)が、その普及に拍車をかけます。

CDPが「いい会社」のモノサシに

では、どんな会社がいい会社なのでしょうか。

その1つのモノサシとして注目されるのが、国際NGOのCDPが取り組んでいる情報公開プログラムです。気候変動、水、森林に関する理念や取り組みを企業に毎年アンケート調査し、得られた回答を公表(ディスクロージャー)するもので、2017年時点でCDPには世界各国の634もの機関投資家が署名し、運用資産の総額は69兆ドルに達しています。

回答内容を基とした格付けも行われており、Aリストに名を連ねた企業は世界の機関投資家に「いい会社」として大いにアピールできることになります。

■CDP気候変動Aリスト(2017年)の日本企業

住友林業 ソニー トヨタ自動車 キリンホールディングス
MS&ADインシュアランスグループホールディングス SOMPOホールディングス 川崎汽船 小松製作所
ナブテスコ 三菱電機 コニカミノルタ 富士通
リコー

■CDPウォーターAリスト(2017年)の日本企業

ソニー トヨタ自動車 日産自動車 ブリジストン
キリンホールディングス サントリー食品インターナショナル クボタ 小松製作所
三菱電機 富士通 富士フィルムホールディングス 三菱ケミカルホールディングス

日本で同調査を支援するKPMGあずさサステナビリティの斎藤和彦代表取締役は「日本で初めて行われた昨年度(注:2015年度)の調査より、今年度(注:2016年度)のほうが丁寧に回答する企業が多くなった」と語る。「回答することで投資家の視点を知り、自己評価ができる」(斎藤氏)ということからすると、アンケートがチェックリストとなり、企業が水との付き合い方を見直す機運を作ったのであろう。(筆者が投稿した「環境新聞」2016年1月27日号記事より抜粋。注意書きは筆者加筆)

企業としては「いい会社」と認められれば多くの投資が得られますし、逆に認められなければ投資が得られず、最悪の場合は新規事業に着手できないという事態も想定されます。それがプレッシャー、あるいは原動力となって、ふるまいをより良い方向に変えていこうとする企業が増えているのです。

投資が市場の失敗を是正

企業のふるまいを左右する存在には、投資家のほかに政府(国、地方自治体等)があります。例えば、企業が利益ばかりを追及するあまりに工場の排水処理を手抜きし、公共用水域が汚染されるといった、負の外部性がもたらされたとします。これは市場の失敗と呼ばれ、政府には排水規制などで失敗を是正する機能と役割があります。

それを踏まえて改めて〝機関投資家によるESG基軸の評価を受けて企業が自らふるまいを良くする″という事象を見てみると、機関投資家があたかも政府と同様の役割を果たしたかのように見えます。つまりESG機軸を持つ機関投資家は、市場の失敗を是正しうるという点で、よりパブリックな存在意義・役割を持ち始めているように思えるのです。

企業が社会サービスを補完

ここで注目したいのは、企業の是正の方向に違いがあることです。まず、政府による是正で実現するのは、排水規制を守るといった法令順守が主になります。つまり、マイナスをゼロにする方向です。

一方の機関投資家による是正では、企業は法令で定められた以上のパフォーマンス、場合によっては法令などないのに社会課題の解決につながる活動に取り組む例が見られます。これらはより創造的で、ゼロをプラスにする方向です。

(Image Photo by photoAC)

森ビルが再開発時に法令で定められた以上の雨水貯留機能をビルに持たせる例などがあります。それによって得られる浸水リスク軽減という効用は、施設そのものの信頼やブランドを向上するだけでなく、施設外のエリアにもプラスの社会的インパクトをもたらします。本来であれば自治体が提供すべき浸水防除という機能が、企業によって実現されたわけです。

水関係ではありませんが、POLAが手掛ける「ムービングサロン」も好例です。大型バスにジュエリーなどを積んで全国各地に出向いて販売する事業で、同社サイトを見ると高所得者層をターゲットにしているようですが、見方を変えれば買い物弱者の支援であり、社会サービスであるとも言えるでしょう。

これら事例を見ると、ESG経営によって自らのふるまいを変革する企業にも、よりパブリックな存在意義・役割が生まれているように感じます。

昨今、国や自治体の財政難などを背景に、行政サービスであっても民(企業)にできることは民に任せようというPPP(公民連携)が広がってきました。ESGに端を発して機関投資家や企業が「パブリック化」することも、広い意味でのPPPと言えるでしょう。

(奥田早希子:「MizuDesign」編集長、東洋大学PPP研究センターリサーチパートナー)