「東京人は、川も、水辺も、嫌いだ」
東京というまちの魅力を歴史・文化・伝統、そして地理的側面からひも解く月刊誌「東京人」の編集長、高橋栄一氏はこう言い放った。誰よりも客観的に、そして熱い思いで東京を見つめ続けてきた高橋氏の言葉は衝撃だった。その真意とは何か。
「東京人」は東京都が発行主で1986年に創刊(2003年に発行元が都市出版株式会社となる)してから、定期的に水辺を特集してきました。最初は創刊初期の第9号です。
それ以降も水辺で遊ぼう、川を散歩しようなどテーマには趣向を凝らし、なんとか水辺を盛り上げたいと取り組んできたつもりですが、期待するほど部数が伸びないんですね。
それに戦後何度かウォーターフロントとか、水辺のカフェ、船の交通などが取りざたされたことがありますが、いずれも「一過性のブーム」で終わっちゃう。
本当に水辺が好きな人が増えているなら、カフェなんかもお客さんが増えて商売として成立するから、店舗がもっと増えたっておかしくない。だけど実際は、店舗が続いているように見えて経営者は交代していたり、行政の支援が入っていたりして、とても商売として成功しているようには見えません。
私自身の期待が大きすぎるのかもしれませんが、期待するほどうまくいっていない。その理由として「東京人が、川も、水辺も、嫌いだからだ」と敢えて激しい言葉を使っているんです。忸怩たる思いですよ。
確かに戦後、東京の川は汚れてしまいました。隅田川では早慶レガッタが中止されたりもして、住民の要望で暗渠化された川も多かった。その頃の子ども達は、川は不衛生だから近寄っちゃいけないと言われて育てられた。そうやって水辺から人がどんどん遠ざけられていったんですね。
下水道が整備され、川の臭気や汚れは改善され、平成に入ると多摩川のリバーサイドにもマンションが建つようになりましたが、もうその頃には東京人は水辺から離れることに慣れちゃってた。川はきれいになったのに、誰も近寄らない。川に抵抗があるというより、水辺に近づく習慣がない、ってことなんじゃないかな。
こうした状況を変えていくために月刊「東京人」にできることは、東京の川がきれいになったこと、川は水辺遊びは楽しく、生活を豊かにするということ、そして、その背景に下水道整備があることを伝え続けていくことだと思っています。2022年も7月号で水辺特集、8月号で下水道特集を組んだので、ぜひご覧いただきたいです。
人は本来的に水で生かされているんだから、水が嫌いということはない。そう信じています。ビールだって、花火なんか見ながら川辺で飲んだほうが気分がいいじゃないですか。そうやって水辺に来る人が増えれば、行政の力を借りなくても、カフェやアトラクションで商売が成り立つ。時間はかかるかもしれないですが、そうなってほしいんですよ。そのために「東京人」では、今後も水辺の特集を繰り返します。