【寄稿】下水道がダイベストされる日は来るか?

急がれる電力大口需要家の脱炭素化


地球からの警告

地球温暖化が進んでいることはもはや疑う余地がなく、2015年に採択された「パリ協定」では、すべての国が「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成」することが規定された。

今年7月のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測では、2040年頃には、世界の平均気温上昇が19世紀後半比で1.5℃を超える可能性があり、極端に暑い日が最大で2倍に増加するなどリスクの高まりが懸念されており、実際、今夏は全国各地で記録的な猛暑が続き、西日本での大雨による災害による甚大な被害は記憶に新しい。

気候変動対策に関する世界の潮流

トランプ大統領のパリ協定離脱により、一時、温暖化政策の停滞が危ぶまれたが、米国の2,500を超える団体が参加する気候変動対策推進の枠組み「We are still in」が2017に、わが国でも「Japan Climate Initiative」が2018.7に発足。国内自治体では、横浜市が「Zero Carbon Yokohama」を宣言、さらに事業運営を100%再生可能エネルギーで賄う「RE100」企業が増加するなど、世界の潮流はむしろ脱炭素社会に向けて加速している。

6月に開かれた、未来投資会議ではエネルギー・環境投資について議論され、ESG投資やグリーンボンド発行量の拡大し、環境問題に積極的に取組む企業に世界中から資金が集まり、温暖化対策が、企業にとって競争力の源泉となっていることが確認された。一方で、化石燃料を取り扱く事業に対するダイベストメント(投資撤退)を行う金融機関も増えており、また、化石燃料に関する事業に融資している金融機関自体もダイベスト8されるなど、脱炭素経済への移行が世界全体で進みつつある。

下水道が地球に与える影響

下水道はこれまで、戦後の高度成長に伴う様々な水環境課題に対して、公衆衛生の向上、公共用水域の水質保全、浸水被害の軽減という役割を果たし、都市の水循環を蘇らせ、わが国の高度成長と発展に貢献してきた。

しかし、残念ながら水質改善や浸水対策の過程で莫大なエネルギーを使用し、また温室効果ガスを排出している。全国の下水道では年間約70憶kwhの電力を使用しており、これは日本全体の約0.7%を占めている*9。下水道が電力の大口需要家であることが分かる。また、温室効果ガスは年間で約378万t-CO2を排出しており(平成27年度)10、地方公共団体の事業活動に伴う温室効果ガス排出量の中でも大きな割合を占めているのが実態である。

これまでは健全な水環境を創造していくことが下水道の使命であったが、地球環境問題への対応が全世界のミッションとなった今日、このままでは、大量の温室効果ガス排出事業である下水道がいつか市民や投資家からダイベストされる日が来るかもしれない。

持続可能な未来のMizu Design

先日、環境省が公的機関で世界初のRE100への参加を宣言し、外務省もすぐに追随した11。世界全体が目指す脱炭素社会を踏まえると、下水道界も「温室効果ガスを排出しない下水道」さらに「化石燃料に依存しない再生エネルギー使用」を目指していくことが重要であり、部分的なエネルギー循環に留まらず、下水道全体の脱炭素化、つまり「Carbon neutral 下水道」を目指すべきではないだろうか?

都市の汚濁をすべて取り込み、それを再生して再び人間社会に循環させていく下水道。水だけでなく、様々なバイオマス資源、更には電力の質の向上まで含めたトータルな「循環のみち」を目指していかなければならない。

さらに、地球全体、人類全体のためにさらに視野を広げ、環境はもとより、経済、社会への貢献を目指していくことで、世界が目指すゴール「SDGs」にも貢献し、都市の大静脈である下水道の価値が高まる。またそのことで、下水道を支える事業者や企業も市民や投資家から評価を得て、下水道界の好循環に繋がる、まさに、「循環のみち」の実現に向けて下水道はこれから賢い選択「Cool Choice」をして必要があるのではないだろうか。未来の下水道に課せられた役割と期待は大きい


寄稿者: 奥野修平・横浜市温暖化対策統括本部副本部長
平成元年横浜市入庁。下水道局、環境創造局で下水道事業(施設管理、設計、計画、経営)に携わる。その後、政策局国際技術協力課長、環境創造局下水道事業調整課長、政策課長を経て現職に至る 


*1:IPCC特別報告書最終草案(7/23日経、7/24読売)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO33318360U8A720C1MM8000/
https://www.asahi.com/articles/ASL7S5HBQL7SUHBI025.html?iref=pc_ss_date

*2:We are still in
http://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1189114_1534.html
http://rief-jp.org/ct4/74274

*3:Japan Climate Initiative(日本気候変動イニシアチブ)
https://www.japanclimate.org/
http://www.city.yokohama.jp/ne/news/press/201807/20180706-043-27724.html

*4:Zero Carbon Yokohama(横浜市)
http://www.city.yokohama.jp/ne/news/press/201806/20180622-043-27629.html
http://www.city.yokohama.jp/ne/news/press/201807/20180705-043-27719.html

*5:RE100
http://there100.org/
https://sustainablejapan.jp/2017/02/01/re100/25334

*6:未来投資会議
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201806/4mirai_toshi.html

*7:ダイベストメント
https://gofossilfree.org/ja/what-is-fossil-fuel-divestment/
https://sustainablejapan.jp/2016/12/27/global-divestment-report-2016/24858
世界銀行の石油及びガス開発に対する融資の2019年以降廃止をはじめ、生命保険会社も多数。

*8:金融機関のダイベスト
https://world.350.org/ja/black_bank_ranking/

*9:「下水道における 資源・エネルギー施策の現状分析」(国土交通省下水道部)   http://www.mlit.go.jp/common/001022698.pdf

*10:国土交通省下水道部サイト「資源・エネルギー循環の形成」http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000124.html

*9:環境省が公的機関で世界初のRE100宣言、外務省も・・https://mainichi.jp/articles/20180616/k00/00m/040/082000c
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000699.html