課題解決型はもう古い。これからは課題発掘型が生き残る

日水コン中期経営計画2025への思い:野村喜一会長に聞く

上下水道コンサルタントの日水コンはこのほど、2025年度を目標年度とする新たな「中期経営計画2025」(中計)を策定した。アドバイザーとして策定に関わった野村喜一会長に、中計の背景となった社会情勢や目指すべきコンサルタント像などについて伺った。(聞き手:奥田早希子)

公平性を担保し、倫理観を貫く

中期経営計画2025体系図(日水コン提供)
社会問題の解決を通して経済的成長を実現することで、売上利益の向上と良い人材確保を目指す

――中計策定にあたり、重視した社会の動きとは何か?

これからの我が国は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と、カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションが2本柱となる。企業は、デジタル化による経済的優位性の確立を目指すDXと、地球環境に配慮するESG経営、この両輪をバランスよく回していかなければ生き残れない。

――それらはどの企業にとっても基調となる世の中の大きな潮流だ。一方で水インフラの未来を見据えては何を重視されたのか。

上下水道事業の運営が官から民へとシフトしていることだ。その流れはますます強まるだろう。その時に民に問われるのは、責任の取り方だ。実はこの点が、組織改編にも大きく関わってくる。

当社を含め上下水道コンサルタント会社は、今はカメレオン状態にある。ある時は官の仕事のアドバイザー(アドコン)であり、ある時は官の仕事を受注して事業を行うプレイヤーにもなっている。

発注側でもあり、受注側でもあるという二面性を持っている。1つの会社が両者の立場をとっていることは、社外から見れば不透明に見えるだろう。

これまでのコンサルはアドコンであり、これからもアドコンに専念すればよいという意見もあろうが、それだけでは発展性がないし、力もつかない。プレイヤーとしての取り組みも重要だ。

解決策として組織改編を行い、アドコンを担う新組織「コンサルティング本部」と、プレイヤーとなる新組織「インフラマネジメント本部」を設置し、両チームを隔てた。原則として互いの交流は行わないこととしている。

これが中計の目玉の1つ。そして、それを着実に実行し、浸透させるために、コーポレート本部を設置してガバナンスを強化したことがもう1つの目玉だ。

ガバナンス強化の背景はほかにもある。官民連携では近い将来、契約更新に伴ってA社からB社へのバトンタッチが始まる。官から民へ、そして、民から民への時代だ。その時、ライバル会社に情報を譲渡しないということがあってはならない。

公平性を担保し、民としての責任を果たし、倫理観を持って経営していきたい。その気概が中計の真ん中を貫いている。

地域に根差して課題を見出す

“地域に根差す”戦略の実現イメージ(日水コン提供)

――「水のインパクトカンパニー」という基本方針を打ち出した。目指すインパクトとはどのようなものか。

民の矜持をもって水ビジネスをやっていくというメッセージを『インパクト』に込めた。

今まで上下水道事業は官主導で整備してきた。民は官が提示する課題に対して解決策を提供してきたわけだが、このいわゆる課題解決型の仕事のやり方から脱却したい。

繰り返しになるが、上下水道事業では官から民への流れは進み、官は発注や調整等の役割に特化し、運営などは民側が担っていく時代が来ると予測している。

その時代を見据えた時、発注者から与えられる課題を解決していくだけの会社には未来はないだろう。民の立場から問題や課題を見つけていく会社に変えていきたい。

――水インフラ事業の仕組みそのものを変えていこうということ。発注方式や業界そのものなど様々なコトの変革への挑戦である。かなりアグレッシブなので向かい風も強そうだが、実現すれば水インフラの新たな価値が創造できそうだ。

それくらいの気概を持ってのぞんでいる。社会問題の解決を通して、経済的成長を実現していきたい。それがインパクトカンパニーだ。

――これまでも社会問題の解決と経済的成長は両輪だったはず。従前との違いは?

中計で示した戦略の1つでもある『地域に根差す』ことをより重視していくことが、両輪を回すことにつながる。よって当社が独り勝ちすることは望んでいない。

地元の企業や市民、学校などと仲間になって取り組むという新しい形を作っていきたい。そうすればこれまで見落としていた『問題』に気づくこともできるはずだ。

都市土木領域を鍛える

業務領域の縦横への拡大イメージ(日水コン提供)
調査・計画・設計のコンサル業に加え、EPC・O&Mまでワンストップサービスの提供可能な企業へと拡大(図中の縦領域)しつつ、事業体の課題を包括的に解決するため道路・都市計画分野への拡大(図中の横領域)に取り組む

――中計の目標達成に向け、あえて課題を挙げるとするなら?

従来、当社では上下水道の処理場やポンプ場など点的な施設の構造物や制御系の設計を数多く手がけてきたが、近年都市部でのシールドや推進工事など都市土木の技術力が弱ってきたという認識を持っている。もちろん計画論など上流部分は手掛けているが、調査・設計のみならず、工事の完成までの一連の作業にもっと関与していきたい。

財政難のため大規模な都市土木の発注そのものが減り、一方で広域化やアセットマネジメントの発注が増えたという背景はある。

しかし、ようやく国土強靭化を旗印に、都市土木の領域である雨水対策にきちんと予算が配分されるようになった。その予算規模は膨大なものになるだろうと予測している。

かといって以前のように大規模な雨水貯留管と大規模なポンプ場を整備する時代ではない。時には床下浸水を前提とするような暫定計画を立案し、最終的には内水排除ができるような管路とポンプのベストミックスな雨水計画を提案していきたい。

手間がかかるという心理から自ら都市土木を避けてしまっていたきらいもあるが、今後は改めていきたい。ここを強くすることで、当社の足元が盤石なものとなる。

このような提案を行う企業こそが『水のインパクトカンパニー』のイメージの一例である。本気で取り組む。

事業領域の拡大イメージ(日水コン提供)
「水と食」や「水と医療」など、“水”と“地域の何か”を組み合わせて新たな事業を生み出す

――中計の戦略である「壁を超える」では、計画からコンストラクションマネジメントや運営までの業務の壁のほか、上下水道から河川や道路、都市計画などとの壁、さらには観光や医療などとの壁を超えるとされている。経営の多角化ということか。

そうではない。先述したように、問題を見つけることこそがコンサルの責務であるとの自覚の現れだ。ただし今後はその対象を上下水道に限定せず、地域全体や海外へと広げていくということ。水と何か、例えば水と医療を掛け合わせたところで問題を発掘し、解決策を提供していきたい。都市の全体像を理解しておく必要がある。

 そのために建設業の許可も取得したし、定款を変更して製品販売もできるようにした。それでも1社で解決できないなら、地元企業や他社と組めばいい。我々が問題を見つけ、問題解決のための事業を振興していく。そうすれば当社が事業の主導権を握ることも可能なのではないかと考える。

 上下水道は自治体固有の事業のため、自治体ごとに解決策をカスタマイズできる自由さがある。財政的に厳しいなら、それなりのやり方がある。そこが道路や河川などの国直轄事業との違いだ。上下水道業界には変革できるポテンシャルがある。

社員の肉体的健康を会社の責務に

――中計を成功させるカギは?

ヒトだ。外部環境の変化に柔軟対応できる会社にするには、社員全員の柔軟な対応が欠かせない。

――そのための人材育成は?

コロナ禍で、肉体の強い人が精神的にも強いということが分かった。世界保健機関憲章全文では健康を『病気でないとか弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること』(日本WHO協会仮訳)と定義しているが、私の見解は異なる。

肉体がベースにあり、その上に精神があり、さらにその上に社会(仕事)がある。ベースとなる肉体こそが重要だ。病気にかかったら、どれだけ精神的に強いと言われていても、マイナス思考になっていった人を多く見てきた。やはり肉体は基盤だ。

肉体が健康である人を作ることは、会社の責任である。肉体が健康であれば、精神が強くなり、精神的余裕が生まれ、良い仕事ができる。そういう人材が集まれば、考え方が多様化し、組織が柔軟になっていくだろう。

社員には健康で70代まで働いてほしい。それは会社にとっての財産だし、本人にとっても、社会にとっても良い効果をもたらす。当社の社員には、健康だと思っている30代からこうした意識をもたせたいと思う。

――具体策は?

健康診断やメンタルヘルスの支援などは当然実施しているが、会社の制度といった表層的なものではなく、もっと手軽に毎日できて、自然に体を動かせるようなちょっとした仕掛けがあれば、社員の肉体の健康につながっていくと思う。そんな社員の自主的な行動変容をもたらす仕掛けを、現在思案しているところである。

――ありがとうございました。

「環境新聞」に投稿した記事をご厚意により転載させていただいています