【寄稿】下水道がデイサービス利用者にもたらした笑顔

GKP「BISTRO下水道チーム」、汚泥肥料を農作業に活用

 かつてウンチやおしっこは、農作物を育てるための大切な肥料として活用されていました。そんな取り組みはとっくに廃れたと思われますか? いえいえ、今も続いているんです。

 生活排水などを下水道で処理した際に発生する汚泥には有機分が多く含まれており、汚泥肥料を製造する自治体も少なくありません。汚泥肥料を農林水産業に活用する取り組みは「BISTRO下水道」、そうして作られた野菜などは「じゅんかん育ち」と命名されています。

 この「BISTRO下水道」「じゅんかん育ち」の普及に取り組んでいるのが、下水道広報プラットホーム(GKP)の「BISTRO下水道チーム」。2019 年の春から長野県諏訪郡富士見町の圃場で栽培トライアル を実施しています。その取り組みについて同チームが寄稿してくださいました。

 
富士見町落合机にあるつくえラボの圃場

おじいちゃんおばあちゃんに「農作業」という日常を

 2019年は落合小サロン畑作部の皆さんと加工用トマトの栽培を、今年は地域団体「つくえラボ」の協力を得ながら地元の生産者の方と一緒にじゅんかん育ちの栽培にトライすることになりました。今回は地元の生産者である「デイサービスかがやき」の皆さんの取り組みをご紹介します。

 デイサービスかがやきは『「生活する力」「生きる力」「自分らしさ」を自分の生活の中で発揮できるよう支援するデイサービス』を目指す通所介護事業所です。

下水道由来の肥料を使った農作業プログラムに取り組む通所介護事業所「デイサービスかがやき」

 富士見町では営農しているかどうかにかかわらず、多くの住民が家庭菜園をやっており、農作業が暮らし(生活)の一部になっています。私も同町を訪れるようになったころ、とくにおじいちゃんおばあちゃんたちがすごい急坂の斜面を登ったり、種が落ちないうちにと作物以外の緑がなくなるくらいきれいに草取りをしたり、とパワフルに畑作業にいそしんでいるのをみて驚きました。

 しかしながら、やはり高齢になると一人でやるには体力的に難しくなってきた、または体は元気でも家族が心配するので…といった理由で、生活の一部であった畑作業を(続けたいと思っても)辞めざるを得なくなった方も少なくないようです。

 利用者さんから同様の声をきいて、同所では昨年から通所型サービスの一環として、職員と利用者の皆さんで協力して「かがやき畑」で「じゅんかん育ち」の野菜を育て、事業所内外で販売する取り組みを行うことにしました。

かがやき畑新聞

 そして、2 年目にして体操や運動といった100 種類以上あるサービスメニューの中でも「かがやき畑」は利用者の皆さんが自ら率先して参加してくれる人気メニューとなり、職員の方が発行する広報誌「かがやき畑新聞」は利用者のほぼ全員が完読するコンテンツになっているとのこと。畑作業に主体的に取り組むことが、利用者の皆さんの活力につながっているのだと感じました。

安価な下水道由来肥料は生産者ニーズにもマッチ

かがやき畑の看板づくり

 そんな大人気メニューを発案した職員の柳澤さんに「じゅんかん育ち」の栽培に関心を持ってくれた理由をきくと「肥料を無料で提供してもらえるときいて。笑」とのことでした。今回、一緒に「じゅんかん育ち」を栽培てくれる生産者の方には無料で肥料を配布させていただくことになっていたので、それを聞きつけて栽培にトライしてくれることになったようです。

 コストの大半をしめる肥料を安価で入手しやすいことは、生産者の方にとって魅力的な要素のようです。下水道由来の肥料の多くが、とても安価で入手できますので生産者のニーズにもマッチしていると改めて感じました。

 一方、利用者さん1人1人には長年の農作業で培ってきたそれぞれの作業ノウハウがあり、それをみんなで平準化する難しさも感じていたようです。ですが、下水道由来という新しい肥料を使って、新しい栽培方法にみんな一緒にチャレンジすることで一体感が生まれ、より多くの人が参加できるメニューになったそうです。

収穫物は道の駅での販売が実現

収穫した野菜の袋詰め作業

 職員の方からの発案で始まった「かがやき畑」ですが、今では畑の管理はほぼ利用者さんのみで行われているとのこと。栽培計画はベテランの名取さんが、販売については早川さんが中心となって活動し、2020年6月からはこれまでの事業所内販売に加えて道の駅「信州蔦木宿」での販売を実現させました。

 
生産担当の名取さん

 道の駅での販売は出荷される野菜の品質はもちろん、数ある商品から自分たちの野菜を選んでもらうための付加価値が求められます。

 「かがやき畑」は長年、畑をやってきたプロ集団により管理されているため、おいしくて見た目もよい立派な野菜が育っています。そこに「じゅんかん育ち」というブランドそのものが付加価値の1つになると期待しています。

地力がアップし、農薬も減らせる

販売担当の早川さん

 かがやき畑のように下水道由来の堆肥を使って野菜を栽培する場合、継続的な堆肥の利用により地力がアップ(微生物の活性化)します。すると農薬や化学肥料の使用量を減らしたエコな農業を実現することにもつながります。また、地力がアップすることで有機物の分解が促進されるので、籾殻や菌床といった有機廃棄物を炭素源として取り入れやすくなります。

 このようにじゅんかん育ちを栽培することは、廃棄物の削減や炭素循環といったSDGsに代表されるようなグローバルな課題を解決し、循環型社会の構築に資する取り組みであるともいえます。

 かがやき畑の取り組みは、未来の暮らしと農のあるべき姿のように思えました。

 今後、農業が盛んな富士見町でじゅんかん育ちを栽培する人がさらに増え、高品質で収量もキープしながら経済的(減農薬・減化学肥料)でエコな農業を実現し、ブランド化すること
で、町内外の人に選ばれる特産品になることを期待しています。

※この記事はGKP BISTRO下水道チーム/つくえラボ/富士見町社会福祉協議会デイサービスかがやきのご厚意により、『じゅんかん育ち通信』に掲載された記事を寄稿していただいたものです。