対談:下水道×都市計画=未来デザイン③

浸水リスクを迎え撃つ

地球温暖化の影響なのか、いわゆるゲリラ豪雨が増えている。最終回は、浸水リスクの軽減策についての議論をお届けする。

岡久宏史氏 日本下水道協会理事長(右)
宮崎市都市整備部長、京都府土木建築部下水道課課長、国土交通省下水道部長、日本下水道新技術推進機構専務理事、積水化学工業官需事業企画開室長などの要職を経て現職

佐々木晶二氏 日本災害復興学会理事(左)
内閣府防災担当官房審議官、民間都市開発推進機構都市センター副所長兼研究理事、国土交通政策総究所長などを経て現職。被災市街地復興特別措置法立案、津波復興拠点整備事業等復興事業の予算要求立案など


1階で寝るの禁止で浸水対策費を減らす

岡久氏 下水道では雨水排除も担っているが、雨の降り方が激しくなっていて、浸水を完全になくすことは限界にきている。床下浸水くらいは許容するという提言が10年以上前に出されているし、迅速な避難など自助努力を含めた雨水対策を考えないといけない。

これはタブー視される話だけど、どこにでも住む自由は憲法で認められているとはいえ、浸水の恐れがある場所から移転してもらった方が対策のコストが少なくてすむのではとの考え方もある。

佐々木氏 都市計画では新規に住ませないことはできるが、東日本大震災での津波地域のように、残った人をどうするか。理屈からすると、住まないようにする方が良いとなるが、強制的に移転はさせられない。

例えば大船渡では、完全住宅禁止のエリアと、1階は浸水の可能性があるからコンクリートにして住宅は2階にするというエリアに分けている。このように、浸水リスクのあるエリアは1階にガレージを作らないとか、1階では寝ないとかの規制はかけられる。その代わり公共側は浸水対策費が減らせるので、その一部で住宅ローンを支援するとか、やり方はありそうな気がする。

岡久氏 それはできそう。タブー視することなく、こういう議論はすべきだ。

佐々木氏 荒川の破堤も怖いけど、個人的には内水被害(都市に降った雨を下水道が受け入れきれずに起こる浸水)の方が怖い。建物の構造も含めて広い意味での治水対策として、都市計画と下水道が一緒にやれることはある。

佐々木氏 最近の雨の降り方は、本当に激しくなっていて心配ですよ。しょっちゅう立体交差に水が溜まって自動車が埋もれているのを見ると、近代国家かと思ってしまう。

住まないエリアを作ったり、建物の構造を規制したり、大規模開発には貯留槽の設置を法律で義務付けたり、トータルで治水対策を考えていかないと。

地下街、地下鉄の安全は下水道から

岡久氏 実は下水管内での雨水の挙動が正確に把握されていない。最近になって、ようやく下水管内の雨水の流れを水位を測定することによって把握しようとする試みが始まっている。管内の水の動きを正確に把握することにより効率的な雨水排除が出来る。

例えば、内水被害が起こったとしても、すべての下水管が雨水で満杯になっているわけではない。下流の下水管は余裕があるのに、その上流のほんの一部の下水管が満杯になったために内水被害が起こることもある。

この様なことが分かると、バイパス管を整備することにより内水被害をなくすことが出来るし、雨水貯留施設を建設する場合も一箇所に大規模の施設を造るのが効率的なのか、分散して造った方がよりよい効果が得られるのかなどきめ細かな整備計画が策定できるのではないかと思っている。雨水コントロールの手法の確立はこれからの課題だ。

佐々木氏 都市計画もそうだが、特に地下鉄や地下街にとって内水対策は非常に重要だ。

岡久氏 以前に地下街における内水被害のシミュレーションをやったことがある。雨がどこから地下街に入り、地下街の中をどのように流れるのか。この様なシミュレーションをすることにより、浸水を防ぐ効果的な方法が分かるし、浸水した場合でも的確な避難誘導が出来る。

佐々木氏 地下街の内水対策も、下水道事業の一環として取り組んでも良いのでは。

岡久氏  大いに取り組むべきだと思う。これからは“下水道”という名前にとらわれず、活動領域をどんどん広げていく発想が求められそうだ。


(進行:MizuDesign編集長 奥田早希子)
(撮影:佐々木伸)

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